キレてます(人事コンサルの日常など)

経営コンサルタント各務晶久が日々の雑感、ノウハウなんかを綴ります

月刊人事マネジメント寄稿記事)実例!人事のコンフリクトマネジメント4 上昇志向 VS 専門志向 (2/2)

 

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 前回の続き(実例4 営業トップ  vs  経営層 の2回目)

 

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経営陣の視点 課題解決能力が欲しい

 「剛田マネージャーに相談を持ち掛けても,具体的な解決策は何一つ示してくれない」という不満が多く寄せられている。親身になって話を聞いてくれるが,「つら
いけど頑張っていこう」と言われるだけで,何をどうすればよいのか,一切アドバイスがないそうだ。

 若く,未熟な営業担当者は,どのように業績を伸ばせばよいか余計に悩み,他チームの同期によく愚痴をこぼしている。また,大口顧客は彼自身が離さず,手柄を部下に譲らないという不満も聞く。

 このようなことから,彼のマネージャー就任後,チーム業績は如実に落ち込んでいる。彼に改善計画をまとめるように指示したが,「チームワークを引き上げる」「個々人のやる気を引き出す」といった抽象的な内容ばかりだ。

 管理職として,大局的な目で原因を分析し,具体的な対策を列挙し,優先順位を付けて提案してほしかったが,期待外れだった。精神論ばかりで,論理性や手段の具体性に乏しいからだ。

 高い業績を上げるノウハウを若手に注ぎ込んでほしかったが,出し惜しみしているようにしか見えない。 

対立点の抽出 管理職イメージに大きな違い

 剛田さんが理想とするのは,部下の悩みをよく聞き,共感を示すことで,部下のやる気を引き出す管理職だ。

 一方,経営陣は目の前の課題を論理的に,かつ具体的に解決することを管理職に求めていた。

 双方がイメージする管理職像にズレがあったため,期待する行動や成果にも当然ズレが生じ,コンフリクトを生じたのである。 

人事部門の役割 3つの対策

 圧倒的に多いのが,今回のケースとは真逆のケースだろう。モーレツ営業マンを管理職に昇進させたら,根性論で部下を追い立てて潰してしまうケースだ。
 今回のケースは,これまでの組織風土に問題意識を持っていた剛田さんが,民主的リーダーになろうとして失敗した事例だ。
 本人は民主的リーダーシップを発揮したつもりだが,部下や経営陣からは,精神論しか言わないと,結局モーレツ上司と同じ評価を受けている点が実に興味深い。
 このようなことがなぜ起こるのだろうか? その原因と対策は以下の 3 つに大別できる。
 まず, 1 点目が,管理職の「選抜」問題である。

 言い古された表現であるが,優秀なプレーヤーが名監督になるとは限らない。従って,プレーヤー時代の業績とは別の視点で管理職を選抜すべきだ。

 三隅二不二氏のPM理論にある通り,「業績志向」「(人間関係の)維持志向」の 2 つが共に高い管理職を選抜する努力が必要だ。剛田氏は「人間関係の維持志向」は高
いが,チームの「業績志向」が甚だ弱かったといえる。

  2 点目が,管理職としての訓練を一切積まずに任用してしまうことだ。

 これまでプレーヤーだった者が,ある日突然,計数管理を求められたり,細かな管理資料を作成させられたりするため,十分にその役割が果たせない。

 しかし,これらの仕事を通じ,プレーヤー時代とは異なる大局観や論理性が初めて磨かれる面もある。

 よって,人事部門は早い段階で管理職候補者に間接部門の仕事を経験させるよう取り計らうべきだ。

 高い業績を上げる者をプレーヤーから外すのは勇気が要るが,非常に重要な人事異動だ。なにも部門間異動の必要はなく,部門内で間接業務を経験させれば十分だ。

  3 点目が,会社が管理職の役割を明文化していないことだ。

「管理職としての働きが分かっていない」と嘆く中小企業経営者に「管理職の職務分掌規程を作っていますか?」と質問して,まともに作っていた試しがない。

 会社が管理職に期待する役割を明確にせず,「社員が分かっていない」と嘆くのは的外れだろう。

 

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月刊人事マネジメント寄稿記事)実例!人事のコンフリクトマネジメント4 営業トップ VS 経営層 (1/2)

 

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月刊人事マネジメント2019年3月号に私が寄稿した記事の転載許可が下りたので、分割して紹介することにしたい。

 

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  実例!人事のコンフリクトマネジメント

  ~「価値観の対立」を越えて職場のダイバーシティを進めよう~

 事例4 営業トップ VS 経営層 

 プレーヤー時代の業績が高く評価されて管理職に昇進した人が,その後,急に周囲と軋轢を起こして評判を落とす…皆さんの周りにもこういう人はいるのではないだろうか?
 今回は,抜群の営業成績を誇っていた社員をマネージャーに昇進させた途端,周囲が期待する役割と本人の思いにズレが生まれ,コンフリクトを起こした事例を紹介する(人物名,企業名は仮称)。

              

問題シーン      トップ営業マンの登用  

 剛田厚さん(38歳)は,㈱ヒューマンカンパニーで人材派遣の営業に従事していた。離職率が比較的高い業界であり,剛田さんの同期もすでに大半が転職していた。そんななか,彼は顧客からの高い信頼を得て,常にトップクラスの営業成績をキープしていた。

 フラット型組織を標榜する同社では, 1 人の営業マネージャーに多くの営業担当者をぶら下げる文鎮型の組織形態をとってきた。

 しかし,社員の増加とともに現マネージャーの管理限界を超えたため,トップ営業マンの剛田さんを新たにマネージャーに任命し,営業部隊の半分をまとめるようミッションを与えたのである。

 剛田さんは,重責を感じながらも張り切っていた。部下の相談や悩みをよく聞くよう心掛けていたし,チームの雰囲気がよくなるよう心を配っていたつもりである。

 マネージャーに就任して 3 ヵ月が経過した頃,剛田さんは突然,経営会議への出席を求められた。会議では,彼が預かるチームの業績が急激に落ち込んでいることを経営陣から責められ,改善計画書の提出を命じられた。

  2 週間後,再び経営会議に出席した剛田さんは,提出した改善計画書の内容に具体性がないと厳しい叱責を受けた。

 会議中は黙って聞いていた剛田さんだったが,会議終了後に営業担当役員に「一生懸命頭をひねって考えた対策で,これ以上は自分には無理です。マネージャーを降ろしてください」と涙ながらに訴えた。

剛田さんの視点 感情に寄り添うことが大事

 うちの営業は,仕事の特性上,どうしても 1匹狼になってしまう。業績が上がらなければ 1 人で悩みを抱え込み,解決できなければ最後には辞めてしまう。

 これまでは,ある程度多めに採用し,生き残る奴だけを残すという会社方針だったが,採用難の時代にそんなやり方は通用しない。

 チーム内で情報共有がされず,他人の手柄をうらやんだり,足を引っ張ったりする雰囲気がある。

 自分は,若い頃からこのような職場風土を何とか変えたかった。だから,まずは部下 1 人ひとりの悩みをしっかり聞くことにした。

 デスクにふんぞり返っていても,部下は素直に言うことを聞いてはくれないので,自分も率先して営業の第一線に立ち続けている。

 営業は真面目に,かつ熱心にやっていれば成果は後からついてくるものだ。

 事を急いでも業績はよくならないと思うが,経営陣に理解してもらえなかった。これではいつまで経っても会社はよくならない。

 

もう一方の経営陣の視点はどのようなものだったのか?

このようなコンフリクトを防止するためにどのように人事が関与すべきだろうか?

詳しくは次回!

 

次回・・・実例4 営業トップ VS 経営層(2/2)

 

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月刊人事マネジメント寄稿記事)実例!人事のコンフリクトマネジメント3 上昇志向 VS 専門志向 (2/2)

 

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前回の続き(実例3 上昇志向  vs  専門志向 の2回目)

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水沼課長の視点 ポジションを高めることが大切

 中村君は中途採用なので,ともすれば社内で孤立しがちだ。能力は誰もが認めているので,必ず管理職として中核人材になれるはずである。ポジションを高めるために彼に足りないものは,社内の人脈だ。
 最近の若い人は飲み会を嫌うが,彼ほど極端な例も少ない。一見無駄に見える付き合いこそ,情報を得たり,人間関係をつくれたりするチャンスだ。
 ほかの人を差し置いて,地位を得ていくには,プライベートの時間を削って投資する必要がある。彼はそれが分かっていない。昔から,「資格取得の勉強ばかりやっている人間なんか出世しない」とよく言われているのを知らないのだろうか。

対立点の抽出 キャリアゴールの違い

 水沼課長は管理職になることがキャリアゴールであり,誰しもそれを目指すはずだと信じて疑わない。だから,中村さんに会社への忠誠心を求めるし,時間やコストの投資が必要だと説く。
 一方,中村さんは,所属組織にこだわらず,SEとしてのキャリアをどう形成するのかという点に関心を置いている。
 双方,目指すべきものが全く違うため,意見の噛み合いようがないのだ。

人事部門の役割 コスモポリタンへの対応

 社会学者のA.W.グールドナーは,水沼課長のように組織内の上昇志向を持つ者を「ローカル」,組織外の専門家社会を準拠集団とする者を「コスモポリタン」という概念で整理している。
 日本企業でもそろそろ「コスモポリタン」の処遇を本気で考えなければならない時期に来ている。にもかかわらず,人事担当者の多くが「ローカル」であって,「コスモポリタン」を肌感覚で理解できていない。人事の仕事は企業特殊的な仕事が多く,「ローカル」にならざるをえないからだ。

 その証拠に,多くの人事担当者から,「最近は管理職になりたがらない人が増えて困っている。割に合わないので,皆責任を引き受けたがらない。どうすればいいのか?」という相談をよく受ける。この背景には,「上昇志向がないことは悪いことで,やる気がない証拠だ!」という考えが透けて見える。
 だが,誰もが組織内で高い役職に就きたいと思っているわけではなく,ネガティブな意味で管理職を避けているわけではない。組織には「コスモポリタン」が一定数いて,長期勤続さえ念頭に置いていない場合もある。
 これまでの人事処遇制度では,管理職になれない人を処遇する「引き込み線」的な「専門職制度」が整えられ,運用されてきた。ポスト不足への対応かチームを率いるのが苦手だが高い業績を上げる「職人肌」の人を処遇するためのものだ。

 だから,専門職の処遇は管理職より一段落ちるイメージが付きまとう。また,専門職制度の多くが長期勤続を前提としており,組織をまたいでキャリア形成していくプロフェッショナル,つまり,「コスモポリタン」的人材を処遇するには使い勝手が悪い。
 「コスモポリタン」な高度専門職の処遇には,まず,社内ヒエラルキーとは無関係な「職種相場」を重視しなければならない。退職金などの後払い的性格の賃金をやめ,その分を月例給に回して水準を引き上げるといった工夫も,流動的プロフェッショナルの処遇には必須だ。

  このようなプロフェッショナル処遇の枠組みを人事部門が設計し直すべきであろう。そのスキームで雇い入れるプロには,このケースで見たような的外れな上昇志向を求めることはないはずだ。

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月刊人事マネジメント寄稿記事)実例!人事のコンフリクトマネジメント3 上昇志向 VS 専門志向 (1/2)

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月刊人事マネジメント2019年2月号に私が寄稿した記事の転載許可が下りたので、分割して紹介することにしたい。

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  実例!人事のコンフリクトマネジメント

  ~「価値観の対立」を越えて職場のダイバーシティを進めよう~

 事例3 上昇志向 VS 専門志向 

 日本企業ではこれまで社員に,企業へのロイヤリティを高めたり,企業内でのポジション上昇に関心を持たせたりする人事マネジメントを行ってきた。しかし,人材の流動化によって,外部の専門家社会に自分の軸足を置き,専門性獲得に強い関心を示す社員が増加している。このような社員は社内の役職に関心があるわけではなく,従来型の上昇志向を煽るマネジメント一辺倒では摩擦を生む。
 今回は,上昇志向を持つ社員と専門志向の強い社員との間で生じたコンフリクト事例を紹介する(人物名,企業名は仮称)。

              

問題シーン      忘年会の参加を拒否  

 中村純一さん(32歳)は, 1年前に東西食品株式会社に入社した。彼は大学卒業後,システム開発会社で,システムエンジニア(以下,SE)としての経験を積んだ。しかし,社内SEとして活躍したいとの思いから東西食品に転職し,情報システム室に配属された。

 SEとしての実務能力に加え,問題解決能力なども高く,中村さんは管理職候補として将来を嘱望されるようになっていた。

 日頃から飲み会や社内行事に関心を示さない中村さんに対し,「偉くなりたいなら社内の人脈づくりを大事にしろ」と水沼課長(53歳)はよく小言を言っていた。しかし,中村さんは一向に聞く気配がなく,課長は苦々しく思っていた。

 ある日,若手社員が忘年会の会費を徴収しようと中村さんに声をかけたところ,「私は参加しないので」と中村さんが言うのを聞き,水沼課長が別室に呼んで事情を聴いた。東西食品では,忘年会への不参加は,よほどの理由がない限り考えられないからだ。
 中村さんによれば,「ちょうど同じ日に所属している情報処理学会の忘年会があるので,会社の忘年会には参加できません」という。これを聞いた水沼課長は激怒し,「会社と学会のどっちが大事なんだ」と問い詰めたうえ,学会の忘年会をキャンセルして,会社の忘年会に必ず参加するよう厳しく言いつけた。
 中村さんは,その場では反論せずに水沼課長の説教を聞いていたが, 1 週間後,退職願を課長に提出した。

中村さんの視点 SEとして自立したい

 前職では開発したシステムを顧客に納品したら業務はそこで終わりだった。社内SEになりたかったのは,実際の仕事のなかで,システムがどう活用されているのかを知りたかったからだ。今後,SEを続けていくなかで欠かせない経験が積めると思ったからこそ,この会社に入社した。

  食品メーカーの中では,情報システム部門は主流の業務ではなく,傍流の業務だ。そんな部門の管理職になってキャリアを終わらせるつもりは毛頭なく,SEとしてどこでも通用するよう自分を高めていきたい。
 水沼課長は事あるごとに,「出世したいなら」と社内のウエットな付き合いを求めてくる。この会社に長くいたいわけではなく,「出世したい」とも思っていない。そ
れよりもSEの仲間に認められるほうが大事だ。最新情報や仕事の紹介も仲間から回ってくるからだ。
 同じSEのはずなのに,課長はそのことを理解しておらず,社内のどうでもよい付き合いを優先しろという。このような課長の下では,到底スキルアップできると思えない。

 

 

もう一方の水沼課長の視点はどのようなものだったのか?

このようなコンフリクトを防止するためにどのように人事が関与すべきだろうか?

詳しくは次回!

 

次回・・・実例3 上昇志向 VS 専門志向(2/2)

 

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月刊人事マネジメント寄稿記事)実例!人事のコンフリクトマネジメント2 ゆとり社員 VS バブル上司 (2/2)

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前回の続き(実例2 ゆとり社員 VS バブル上司 の2回目)

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近藤課長の視点 上司は敵,俺を越えていけ

 吉田さんは,周りのサポートもあり,最近なんとか最低限の業務をこなせるようになってきた。指示した仕事は期限内に提出してくるが,出来栄えが粗い。「反応」だけで仕事をしており,じっくり考えて取り組んでいない。

 普通,仕事に慣れるほど指摘事項が徐々に減っていくはずだが,彼女はいつも同じような指摘ばかり受け,成長が見られない。

 上司が何を質問してくるか予想し,それに対して答えを準備しておくのは仕事の基本だ。しかし,彼女は,初めの頃,私が指摘すると「さすが課長」と言って感心し,感謝していた。不十分な検討内容で上司に提出することが悪いこととは思っていなかったようだ。

 彼女は私の指摘をもとに資料を修正し,すぐに提出してくるが,関連する事項を調べたり,私から別の質問が出ることを想定したりしないので,また同じことを繰り返す。

 仕事を進めるうえでの最初の関門が上司だ。私が入社した頃は「上司は敵だ」と教わった。しかし,彼女は敵である上司に理論武装せず,丸腰で挑んでくる。

 強めに注意するとすぐに落ち込むし,最近では,どう教育していいものか分からなくなってきた。

対立点の抽出 「上司の役割」の認識にズレ

 この事例の対立点は,「上司の役割」の捉え方に大きな違いがあることだ。

 吉田さんは「上司は部下をサポートするもの」という認識を持っている。一方,近藤課長は「上司は最初の関門」で,部下はそれを乗り越えるための準備をして挑むものという認識を持っている。双方が真逆の考え方であるためにコンフリクトが生じるケースだ。

 吉田さんが「とにかく早く提出するほうが良い」と考えていたのは,足りない点は当然上司が補強すると思っていたためだ。それに対し,近藤課長は納得する案を持ってくることを期待していた。

 読者諸氏も世代別に吉田さんか近藤課長か,いずれかに強く共感するのではないだろうか。

 「ゆとり世代」「さとり世代」と一括りにして,ステレオタイプで取り扱うべきではない。しかし,この世代が受けた教育を理解しておくことは相互理解に不可欠だ。

 この世代が受けた教育では,「人は対等」なのである。先生も生徒も同じ目線で協調的に問題を解決することがよしとされ,「上下関係」はむしろ好ましくないものとされている。

 しかし,就職した途端,急に上下関係に放り込まれる。これまで良くないものとされ,触れさえしなかった「上下関係」にさらされ,うまく適応できないのだ。

 だから,彼らが理想とする上司像は,強いリーダーではなく,「支援的」「協調的」上司だ。この世代が「叱られ慣れていない」と言われるゆえんである。

人事部門の役割 3つの対応策

 ここで大事なのは,どちらの考えが正しいかジャッジすることではない。だからといって,吉田さんが上司になって,自分が甘かったと気づくまで放置するわけにもいかない。同世代の若手社員も同じようなコンフリクトを職場で起こしている可能性は高い。

 この場合,人事が打つべき 3 つの手が考えられる。

  1 つは言語化である。管理職の職務分掌を規程に定める企業は多いが,このケースのような抽象度を上げた「上司の役割」を言語化して伝える努力をしている企業は ほとんどない。上司と対峙する部下の心構え(決裁の取り方)などについても言語化して若手社員に明示すべきだろう。

  2 つ目は協調的,支援的なリーダーシップの取り方を上司側に教育することだ。自分たちが上司から受けた指導をそのまま今の若手に用いても効果は限定的であり,相手に合わせたより効果的な指導方法を人事主導で教えなければならない。

  3 つ目は能力のフィードバック機会を増やすことである。通常,評価面接の機会を使って,上司が部下の不足能力をフィードバックし,今後の育成方法が話し合われる。しかし,評価面接は半期に 1度程度しか実施されない。フォーマルな場を待たず,日常の業務を通じて,適時フィードバックするほうが効果的だ。日常のやり取りを業務指導だけで済ませるから今回のケースのようにコンフリクトを招くことになるのだ。

 

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  実例!人事のコンフリクトマネジメント

  ~「価値観の対立」を越えて職場のダイバーシティを進めよう~

 事例2 ゆとり社員 VS バブル上司 

 世代間ギャップはいつの時代にもみられる職場での悩ましい問題の一つである。なかでも,ゆとり教育を受け,デフレ基調の中で育った20代と高度成長期に生まれ,バブル期に入社したアラフィフ世代の価値観には大きな隔たりがあり,摩擦を生じやすい。

 今回は,世代間ギャップが生んだコンフリクト事例を紹介する。(人物名・企業名は仮称)。

              

問題シーン       突然泣き出す部下  

 吉田晴香さん (26歳)は, 2 年前に株式会社サクセスに入社した。彼女は大学卒業後すぐには就職せず, 2 年間法科大学院に通っていた。しかし,司法試験に挫折し, 3ヵ月間だけ他社で派遣就労を経験したあと同社に入社した。ほとんど職務経験がない吉田さんを採用し,何とか戦力になるまで育てたのが総務課の近藤課長(51歳)だ。

 ある日,吉田さんは毎年恒例の社内行事の実施要領を作成し,近藤課長の決裁を取りに行った。近藤課長は一通り書類に目を通し,「雨が降った時の対応はどうするつもり?」「去年は誰が乾杯の音頭をとった?」と細かな質問を繰り返した。

 吉田さんは近藤課長の質問にほとんど答えられず,下を向き,黙ってメモを取っている。

それを見て近藤課長は,大きなため息を吐き,ますます厳しい口調で細かな点を詰めていった。突然,吉田さんは目に涙を浮かべ,小走りでトイレに駆け込んだ。

吉田さんの視点 上司は部下を助けてくれるもの

 よく同世代がSNSで「優秀な人はレスポンスが早い」と言っているのを目にする。確かにその通りだと思うので,受けた仕事は極力早めに仕上げている。

 せっかく手早く仕上げて提出しても,課長はそれを全く評価してくれない。そればかりか,細かな点ばかり指摘してくる。

 上司は部下より経験が長く,知恵もある。だから,不備を指摘して叱るのではなく,不備を補強して完成に持っていくのが上司の役目ではないのか。

 課長にいくら事務改善を提案しても,「この点はどうだ?」とか「検討が甘い」と言って潰される。だから結局誰も何も言わなくなる。こんな環境では決してクリエイティブな発想など生まれない。

 課長の指摘に回答できないと,課長はどんどん不機嫌になる。課長は私を責めるが,私が質問に答えられないのは,そもそも課長の教え方に問題があるはずだ。部下の育成責任を自覚していないうえに,部下に当たりちらすなんて論外だ。

 パワハラといってもいいと思う。最近は課長の顔を見ると気分の落ち込みがひどい。心療内科を受診しようかと考えている。

 

もう一方の近藤課長の視点はどのようなものだったのか?

このようなコンフリクトを防止するためにどのように人事が関与すべきだろうか?

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月刊人事マネジメント寄稿記事)実例!人事のコンフリクトマネジメント1 オーナー社長 VS 大企業OB(2/2)

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前回の続き(実例1 オーナー社長 VS 大企業OB の2回目)

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社長の視点 成果が絶対条件

 採用面接で「宣伝だけでなく,営業もできるので年齢は高いがぜひ使ってほしい」と武田氏が意欲を見せたので採用した。

「 1 から始める新規事業なので,私個人の預金を切り崩してあなたの給与を支払うことになる。売上が立たないとあなたの給料はすぐに払えなくなる。 3 ヵ月後に最低50万円の売上を上げる自信があるなら採用する」と契約前に具体的に説明していた。

 広告であれ営業であれ,方法は任せるので,自分の人件費を稼ぎ出すことが条件だったし,結果はシビアに求める約束だった。ほとんど社内にいないし,直行直帰も多い。経過報告もないが,大企業で部長まで務めた人なので,細かいことを言うよりも成果を示してもらうことにした。

 広告を出したいというので認めたが反響はゼロだった。反省どころか,「相場より大幅にコストダウン」したとアピールされる始末だ。今のパンフレットが粗末だというので更新を認めた。

 本来は不要な経費なのだが,これもコストダウン実績だと言う。くだらないアリバイをいくら並べたところで,彼の給料がどこからか湧いてくるわけではない。なぜこんな簡単なことが理解できないのだろう。

対立点の抽出 シビアさに温度差

 大企業では,武田氏 1 人くらいの人件費は何とでもなるが,零細企業ではそうはいかない。このことを武田氏は肌感覚で理解しておらず,売上よりも,取り組み方法や売上以外の貢献といった「身を守るための理屈」の準備から着手していた。大企業勤めで身についた処世術だ。

 武田氏は放任され,成果だけを求められる働き方に自らの考え方をアジャストできなかった。言い訳は通じず,売上のみに焦点が当たったので,社長を「売上至上主義」だと断じたのだ。 一方,社長は財務的な余裕がないため,ピンポイントで売上貢献を求めていた。武田氏に裁量を与え,やり方を完全に任せていたので,成果でしか判断しようがないともいえる。入社前に「成果をシビアに求める」と説明し, 3 ヵ月で契約更新を判断する約束なので,武田氏が必死で売上を追うものだと社長は信じ込んでいた。

 どの企業でも「成果をシビアに求める」というフレーズはよく使うが,「シビアさ」にはかなりの温度差がある。 1 つの言葉に双方が異なるイメージを抱き,不幸を生んだのだ。

人事部門の役割 双方のクッション役に

 本件は,人事部門などの第三者が,もっと早い段階で 2 人から意見を聞き取っていれば,対立は回避できたはずだ。

 外部人材は,組織に馴染むまでに大小のコンフリクトを起こすことを前提とした人事マネジメントが必要だ。

 入社後あまり期間を空けずに,人事部門が本人と上司の双方にヒアリングし,クッション役となるのだ。「上司にそれを言ったら終わり」という局面をつくらせないことは,ダイバーシティ推進に向け人事部門が果たすべき重要な役割といえる。

 ポイントは本人だけでなく,上司にもヒアリングすることだ。このような「コンフリクト・カウンセリング」が近くキャリア・カウンセリングや産業カウンセリングより脚光を浴びるようになるだろう。

 この問題の根本には, 1 から10まで言わなくても武田氏とは相互に理解し合えるという社長の思い込みがある。労働契約書には職務内容として「宣伝・営業」と明示されており,社長は入社時に売上目標を記載した簡単な書面を渡していた。にもかかわらず武田氏はあくまで自分は宣伝担当で,売上目標は 1 つの目安だと主張していた。

 人は選択的に情報を受け取り,自分の都合のいいように解釈しがちだ。個人差は大きいが,一般論として,高年齢者ほどその傾向は強くなる。企業OBを受け入れる場合,定年まで慣れ親しんだ組織や仕事に寄せて物事を理解しようとしたり,一旦思い込むと修正が容易でなかったりする点には注意が必要だ。

 用語 1 つとっても,会社が違えば意味は異なり,誤解を生むもとになる。従って,書面では舌足らずな単語や短文ではなく,冗長に思えるくらい丁寧に職務内容や期待成果を詳述するほうがよい。人材多様化時代には,暗黙の了解を前提としない人事管理が必要なのだ。

 

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