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性格のどこを見るべきか? 「性格の三側面理論」/人事のモヤモヤがスッキリする学術理論⑥/月刊人事マネジメント寄稿連載記事

月刊人事マネジメント2020年1月号に私の寄稿記事の転載許可が下りたので、紹介することとしたい。

 

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人事のモヤモヤがスッキリする学術理論

性格のどこを見るべきか?

「性格の三側面理論」 

 「部長には人格者を昇進させたい」とか,「あいつは営業向きの性格だ」─このような会話は昇進・昇格・配置・採用などの局面で,比較的よく交わされるのではないだろうか。

 しかし,人格って何? そもそも「〇〇向きの性格」なんてあるのだろうか? モヤモヤは募るばかりだ。

 今回は,そんな時に役立つ「性格の三側面理論」を紹介したい。

 

<人格や性格に良し悪しはない> 

 まず,「人格」や「性格」とは何だろうか?

 人格(Personality) は“ 人となり”と同義であり,「その人の行動の背景にある精神的,身体的な事柄の一切を含む人間に対する相対的な表現」で,一方,性格(Character)は人格の下位概念であり,「人のさまざまな行動面における心理的特性をひとまとめにした概念」と定義されている(大沢,1989)。

 

 アカデミックに「人格」を議論しようとしても,“人となり”では漠然としすぎてとらえどころがない。

 そこで,下位概念である「性格」を分析的にとらえようとする研究が進んでいる。

 アカデミックな研究成果を生かした「性格適性検査」はあるが,「人格適性検査」がないのはそのためだ。

 いずれにしても,「人格」や「性格」は個人の特性差を示すものであって,良い「人格」や悪い「性格」というように,良し悪しがあるものではないことを理解してお きたい。

 

<性格はその人を特徴づける一貫性のあるもの> 

 性格についてもう少し掘り下げて考えてみたい。

 人はさまざまな影響を受けるので,人がとる行動は場面や環境によって異なってくる。

 しかし,場面や環境の違いを超えて共通して示される「慎重で冷静」「おおらかで悠然としている」などといった,その人の独自性につながる一貫性が見られる行動様 式があり,それを性格と呼ぶのである。

 大沢氏(大沢,1989)は性格を「ある人を特徴づけている基本的な行動様式で,持続性とまとまりを持ったもの」と定義したうえで,図のように性格を3 つの側面に分けて整理している。

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<性格には3つの側面がある> 

 性格には,「態度的側面」「意志的側面」「情緒的側面」の3 側面があるとされる。

 外観的にとらえやすく変容しやすいものから,外面からはとらえにくく変容しにくいものまで, 3層構造を成している。

 「態度的側面」とは性格のうちの上部構造(表層)に位置するものである。

 個人のものごとに対する興味や価値観を示すもので,外面からとらえやすい。

 興味や価値観は,今現在置かれている環境の影響を受けやすいので,比較的変容しやすいものといえる。

 一方,性格の最下部にある「情緒的側面」は,「内向的」だとか,「粘り強い」といった感情面をいう。

 持って生まれた特性であり,情緒面は本質的に変容しにくい。

 それらの中間に位置するのが「意志的側面」と呼ばれる部分だ。「意欲」は,環境により変容しやすい部分と個人の情緒に根差して変容しにくい部分の双方を持ち合わせているといえる。



<採用や配置では変容しにくい特性に着目する> 

 ここで問題になるのが,人事管理では3 つの側面のいずれに着目すべきか? という点である。

 例えば,人材を採用する際には,「態度」「意欲」「情緒」のいずれに着目して選抜を行うべきだろうか?

 「態度的側面」「情緒的側面」に関しては,採用後の環境,教育,マネジメントで変容させることが期待できるので,スクリーニングの際の絶対条件にはしないとすべきだ。

 特に中途採用などでは,前職の職場環境のせいで「意欲」が大きくダウンしている場合があるが,入社後の環境次第で意欲が劇的に高まることがある。

 やはり,採用後の教育やマネジメントではいかんともしがたい「情緒的側面」に焦点を当てて,スクリーニングを行うべきだろう。

 

<性格把握の2 タイプ> 

 個々人の性格を把握し,理解しようとする場合,「類型論」と「特性論」という2 つのとらえ方がある。

 「類型論」とは典型的なタイプに当てはめ,性格を分類・理解しようとするものだ。「直情型」「慎重型」「理論型」「社交型」などの典型的なタイプに分類するため,直感的に理解しやすい。

 しかし,人の性格は千差万別なのに,限られたタイプに当てはめて理解しようとすれば,その人の性格をとらえきれない。

 もう一方の「特性論」とは,誰にでも見られる共通的特性(活動性,内向性など)をどの程度の強さで備えているのかで理解しようとするものだ。

 分析的に観察できるが,全体像を把握するには,情報を統合する理解力が求められる。

 性格適性検査などでは,類型論と特性論のハイブリッド型で結果が出力されていることが多い。

 

<売るかどうかは性格では分からない> 

 アメリカで大規模に行われた営業職の適応性の研究では,非常に興味深いデータが示されている。

 性格と「職務満足」に関しては相関が見られたが,性格と「販売実績」に関しては有意な相関が見られなかったのだ。

 つまり,どのような性格であれ,売るときは売るし,売れないときは売れないのである。商品の魅力や担当する顧客次第と言ってしまっては身も蓋もないが,単なる性 格面の違いがパフォーマンスに与える影響は非常に小さいといえるのだ。

 ただし,営業という仕事に満足しているかどうかについては,性格が大きく関係していることが統計上示されている。

 社交的で裁量の高い仕事を好む性格の人は,営業に満足しているという相関が見られたのだ。

 誤解してはいけないのが,職務満足が高くても,パフォーマンスが高いとは限らない点だ。

 「あいつは営業向きの性格だ」という場合には,「あいつは営業という仕事に満足するに違いない」という意味でしか使わないほうが賢明なようである。

( 参考文献:大沢武志『採用と人事測定』朝日新聞出版,1989年 )

 

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