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経営コンサルタント各務晶久が日々の雑感、ノウハウなんかを綴ります

月刊人事マネジメント寄稿記事)実例!人事のコンフリクトマネジメント2 ゆとり社員 VS バブル上司 (2/2)

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前回の続き(実例2 ゆとり社員 VS バブル上司 の2回目)

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近藤課長の視点 上司は敵,俺を越えていけ

 吉田さんは,周りのサポートもあり,最近なんとか最低限の業務をこなせるようになってきた。指示した仕事は期限内に提出してくるが,出来栄えが粗い。「反応」だけで仕事をしており,じっくり考えて取り組んでいない。

 普通,仕事に慣れるほど指摘事項が徐々に減っていくはずだが,彼女はいつも同じような指摘ばかり受け,成長が見られない。

 上司が何を質問してくるか予想し,それに対して答えを準備しておくのは仕事の基本だ。しかし,彼女は,初めの頃,私が指摘すると「さすが課長」と言って感心し,感謝していた。不十分な検討内容で上司に提出することが悪いこととは思っていなかったようだ。

 彼女は私の指摘をもとに資料を修正し,すぐに提出してくるが,関連する事項を調べたり,私から別の質問が出ることを想定したりしないので,また同じことを繰り返す。

 仕事を進めるうえでの最初の関門が上司だ。私が入社した頃は「上司は敵だ」と教わった。しかし,彼女は敵である上司に理論武装せず,丸腰で挑んでくる。

 強めに注意するとすぐに落ち込むし,最近では,どう教育していいものか分からなくなってきた。

対立点の抽出 「上司の役割」の認識にズレ

 この事例の対立点は,「上司の役割」の捉え方に大きな違いがあることだ。

 吉田さんは「上司は部下をサポートするもの」という認識を持っている。一方,近藤課長は「上司は最初の関門」で,部下はそれを乗り越えるための準備をして挑むものという認識を持っている。双方が真逆の考え方であるためにコンフリクトが生じるケースだ。

 吉田さんが「とにかく早く提出するほうが良い」と考えていたのは,足りない点は当然上司が補強すると思っていたためだ。それに対し,近藤課長は納得する案を持ってくることを期待していた。

 読者諸氏も世代別に吉田さんか近藤課長か,いずれかに強く共感するのではないだろうか。

 「ゆとり世代」「さとり世代」と一括りにして,ステレオタイプで取り扱うべきではない。しかし,この世代が受けた教育を理解しておくことは相互理解に不可欠だ。

 この世代が受けた教育では,「人は対等」なのである。先生も生徒も同じ目線で協調的に問題を解決することがよしとされ,「上下関係」はむしろ好ましくないものとされている。

 しかし,就職した途端,急に上下関係に放り込まれる。これまで良くないものとされ,触れさえしなかった「上下関係」にさらされ,うまく適応できないのだ。

 だから,彼らが理想とする上司像は,強いリーダーではなく,「支援的」「協調的」上司だ。この世代が「叱られ慣れていない」と言われるゆえんである。

人事部門の役割 3つの対応策

 ここで大事なのは,どちらの考えが正しいかジャッジすることではない。だからといって,吉田さんが上司になって,自分が甘かったと気づくまで放置するわけにもいかない。同世代の若手社員も同じようなコンフリクトを職場で起こしている可能性は高い。

 この場合,人事が打つべき 3 つの手が考えられる。

  1 つは言語化である。管理職の職務分掌を規程に定める企業は多いが,このケースのような抽象度を上げた「上司の役割」を言語化して伝える努力をしている企業は ほとんどない。上司と対峙する部下の心構え(決裁の取り方)などについても言語化して若手社員に明示すべきだろう。

  2 つ目は協調的,支援的なリーダーシップの取り方を上司側に教育することだ。自分たちが上司から受けた指導をそのまま今の若手に用いても効果は限定的であり,相手に合わせたより効果的な指導方法を人事主導で教えなければならない。

  3 つ目は能力のフィードバック機会を増やすことである。通常,評価面接の機会を使って,上司が部下の不足能力をフィードバックし,今後の育成方法が話し合われる。しかし,評価面接は半期に 1度程度しか実施されない。フォーマルな場を待たず,日常の業務を通じて,適時フィードバックするほうが効果的だ。日常のやり取りを業務指導だけで済ませるから今回のケースのようにコンフリクトを招くことになるのだ。

 

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