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性格のどこを見るべきか? 「性格の三側面理論」/人事のモヤモヤがスッキリする学術理論⑥/月刊人事マネジメント寄稿連載記事

月刊人事マネジメント2020年1月号に私の寄稿記事の転載許可が下りたので、紹介することとしたい。

 

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人事のモヤモヤがスッキリする学術理論

性格のどこを見るべきか?

「性格の三側面理論」 

 「部長には人格者を昇進させたい」とか,「あいつは営業向きの性格だ」─このような会話は昇進・昇格・配置・採用などの局面で,比較的よく交わされるのではないだろうか。

 しかし,人格って何? そもそも「〇〇向きの性格」なんてあるのだろうか? モヤモヤは募るばかりだ。

 今回は,そんな時に役立つ「性格の三側面理論」を紹介したい。

 

<人格や性格に良し悪しはない> 

 まず,「人格」や「性格」とは何だろうか?

 人格(Personality) は“ 人となり”と同義であり,「その人の行動の背景にある精神的,身体的な事柄の一切を含む人間に対する相対的な表現」で,一方,性格(Character)は人格の下位概念であり,「人のさまざまな行動面における心理的特性をひとまとめにした概念」と定義されている(大沢,1989)。

 

 アカデミックに「人格」を議論しようとしても,“人となり”では漠然としすぎてとらえどころがない。

 そこで,下位概念である「性格」を分析的にとらえようとする研究が進んでいる。

 アカデミックな研究成果を生かした「性格適性検査」はあるが,「人格適性検査」がないのはそのためだ。

 いずれにしても,「人格」や「性格」は個人の特性差を示すものであって,良い「人格」や悪い「性格」というように,良し悪しがあるものではないことを理解してお きたい。

 

<性格はその人を特徴づける一貫性のあるもの> 

 性格についてもう少し掘り下げて考えてみたい。

 人はさまざまな影響を受けるので,人がとる行動は場面や環境によって異なってくる。

 しかし,場面や環境の違いを超えて共通して示される「慎重で冷静」「おおらかで悠然としている」などといった,その人の独自性につながる一貫性が見られる行動様 式があり,それを性格と呼ぶのである。

 大沢氏(大沢,1989)は性格を「ある人を特徴づけている基本的な行動様式で,持続性とまとまりを持ったもの」と定義したうえで,図のように性格を3 つの側面に分けて整理している。

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<性格には3つの側面がある> 

 性格には,「態度的側面」「意志的側面」「情緒的側面」の3 側面があるとされる。

 外観的にとらえやすく変容しやすいものから,外面からはとらえにくく変容しにくいものまで, 3層構造を成している。

 「態度的側面」とは性格のうちの上部構造(表層)に位置するものである。

 個人のものごとに対する興味や価値観を示すもので,外面からとらえやすい。

 興味や価値観は,今現在置かれている環境の影響を受けやすいので,比較的変容しやすいものといえる。

 一方,性格の最下部にある「情緒的側面」は,「内向的」だとか,「粘り強い」といった感情面をいう。

 持って生まれた特性であり,情緒面は本質的に変容しにくい。

 それらの中間に位置するのが「意志的側面」と呼ばれる部分だ。「意欲」は,環境により変容しやすい部分と個人の情緒に根差して変容しにくい部分の双方を持ち合わせているといえる。



<採用や配置では変容しにくい特性に着目する> 

 ここで問題になるのが,人事管理では3 つの側面のいずれに着目すべきか? という点である。

 例えば,人材を採用する際には,「態度」「意欲」「情緒」のいずれに着目して選抜を行うべきだろうか?

 「態度的側面」「情緒的側面」に関しては,採用後の環境,教育,マネジメントで変容させることが期待できるので,スクリーニングの際の絶対条件にはしないとすべきだ。

 特に中途採用などでは,前職の職場環境のせいで「意欲」が大きくダウンしている場合があるが,入社後の環境次第で意欲が劇的に高まることがある。

 やはり,採用後の教育やマネジメントではいかんともしがたい「情緒的側面」に焦点を当てて,スクリーニングを行うべきだろう。

 

<性格把握の2 タイプ> 

 個々人の性格を把握し,理解しようとする場合,「類型論」と「特性論」という2 つのとらえ方がある。

 「類型論」とは典型的なタイプに当てはめ,性格を分類・理解しようとするものだ。「直情型」「慎重型」「理論型」「社交型」などの典型的なタイプに分類するため,直感的に理解しやすい。

 しかし,人の性格は千差万別なのに,限られたタイプに当てはめて理解しようとすれば,その人の性格をとらえきれない。

 もう一方の「特性論」とは,誰にでも見られる共通的特性(活動性,内向性など)をどの程度の強さで備えているのかで理解しようとするものだ。

 分析的に観察できるが,全体像を把握するには,情報を統合する理解力が求められる。

 性格適性検査などでは,類型論と特性論のハイブリッド型で結果が出力されていることが多い。

 

<売るかどうかは性格では分からない> 

 アメリカで大規模に行われた営業職の適応性の研究では,非常に興味深いデータが示されている。

 性格と「職務満足」に関しては相関が見られたが,性格と「販売実績」に関しては有意な相関が見られなかったのだ。

 つまり,どのような性格であれ,売るときは売るし,売れないときは売れないのである。商品の魅力や担当する顧客次第と言ってしまっては身も蓋もないが,単なる性 格面の違いがパフォーマンスに与える影響は非常に小さいといえるのだ。

 ただし,営業という仕事に満足しているかどうかについては,性格が大きく関係していることが統計上示されている。

 社交的で裁量の高い仕事を好む性格の人は,営業に満足しているという相関が見られたのだ。

 誤解してはいけないのが,職務満足が高くても,パフォーマンスが高いとは限らない点だ。

 「あいつは営業向きの性格だ」という場合には,「あいつは営業という仕事に満足するに違いない」という意味でしか使わないほうが賢明なようである。

( 参考文献:大沢武志『採用と人事測定』朝日新聞出版,1989年 )

 

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管理職の選抜と育成はどうすべきか? 「PM理論」「カッツ理論」/人事のモヤモヤがスッキリする学術理論⑤/月刊人事マネジメント寄稿連載記事

月刊人事マネジメント2019年12月号に私の寄稿記事の転載許可が下りたので、紹介することとしたい。

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人事のモヤモヤがスッキリする学術理論

管理職の選抜と育成はどうすべきか?

「PM理論」「カッツ理論」 

 「プレイヤー時代は優秀だったのに管理職にした途端ダメだった」

 「初めから優秀な管理職なんているわけがない,どうやって育成したらいいのだろう?」

    どこの組織でもよく聞く話だ。

 繰り返し議論されるテーマなのに,意外に整理が進んでいないのでモヤモヤしてしまう。

 今回は,そんな時に役立つ,「PM理論」と「カッツ理論」を紹介したい。

 

<「業績」と「人間関係」のどちらに関心があるのか> 

 プレイヤー時代には抜群の業績を上げていた人を管理職にした途端,部下を「根性論」で追い立てることがある。こういうマネジメントでは,部下がつぶされるか,部 下から突き上げを食らって本人がつぶれてしまうかのいずれかだ。

 その一方で,部下との人間関係に心を配り,きめ細やかな配慮をするけれど,与えられたミッションをやり遂げることには今一歩の人もいる。部下からの評判は良い が,課題をやり遂げられなかったり,チームの業績が低かったりするので上司からの評価は低い。

 両者の違いはいったい何だろう?

 前者は業績の達成志向が強く,人間関係への配慮が低い。後者は人間関係の維持に関心が高いが,業績達成への関心が低い。つまり,両者の関心の対象がそれぞれ異な っているのだ。

 

<優れたリーダーシップとは> 

 三隅二不二氏は,「業績」と「人間関係の維持」をもとにしたリーダーシップの研究を行った。

 彼は高い目標を掲げたり,緻密にフォローしたり,プレッシャーをかけたりする監督行動をP(パフォーマンス)行動,部下の意見に耳を傾けたり,気まずい雰囲気を解きほぐしたりする行動をM(メンテナンス)行動と呼んでいる。

 図1 のように,これらP行動とM行動を2軸にしたマトリクスでリーダーシップスタイルを整理したのがPM理論だ。

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 PM理論では,P行動とM行動の双方ともに高いPM型(ラージピー,ラージエム型)が最も有効なスタイルだとされている。また,PとMは掛け算であり,足し算ではないという。

 つまり,P行動,M行動のどちらかがゼロなら効果はゼロ,どちらかが突出していれば短期的には効果を上げそうだが,長続きしない。

 なお,Pm(ラージピー,スモールエム型)は業績の達成に強い関心を示すが,部下の気持ちには関心を払わないモーレツ上司で,部下が消耗していく。

 pM(スモールピー,ラージエム型)は部下と仲良くやっていこう,和を大事にしていこうとするが,業績の達成に関心が低いので部門業績を引き上げにくい。

 pm(スモールピー,スモールエム型)は業績,人間関係のどちらにも関心が低いので,管理職に据えてもうまくいかないことが多い。

 理想を言えば,「業績志向」「人間関係の維持志向」の2つとも高いPM(ラージピー,ラージエム型)の管理職を選抜するのがベストだ。

 管理職の選抜に際しては,この2軸の発揮度合いを日常の行動を通じて上司がよく観察しておくことが重要だ。

 また,上司のバイアスを補完するためにもアセスメントを利用するのも一手である。

 ちなみに,市販されている多くの管理職選抜用アセスメントでも,この2 軸を測定しているものが多いが,基になっているPM理論を知らないと,十分活用できないだろう。

 

<組織課題に基づく教育訓練を> 

 本来選抜の段階でPとMの2軸を基にしたスクリーニングをしなければならないが,人材が必ずしも潤沢でないことのほうが多い。だから,多少のことには目をつぶ って管理職にせざるをえないのが現実だろう。

 そこで重要性が増すのが教育訓練だ。

 一般に商社や販社など,営業職が多い会社では,高い業績を上げた人を管理職に選抜しがちだ。

 一方,非営利組織や官僚的な組織などでは,人間関係で波風を立てない人を昇進させやすい。

 前者ではP行動を発揮する人を昇進させているが,M行動の発揮は十分でない可能性がある。後者の場合は,その反対の可能性がある。

 つまり,管理職訓練を行うにしても,不足する能力はどちらなのか,その前提が違えば設計は大きく変わる。

 このあたりの課題整理を行わないまま,出来合いの管理職研修を導入し,効果がないと講師や教育業者に不満を漏らすのはナンセンスだろう。

 

<組織課題に基づく教育訓練を> 

 経営学者ロバート・カッツは,管理職に必要なスキルを図2 のように3つに大別している。

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 1つ目が実務能力である「テクニカルスキル」, 2つ目が対人関係を処理する「ヒューマンスキル」,3つ目が抽象概念を扱う「コンセプチュアルスキル」だ。

 カッツによれば,3種の能力は,高位のポジションと低位のポジションで必要とされる割合が異なる。

 低位のポジションではより実務に近い「テクニカルスキル」が,高位のポジションでは抽象概念を扱う「コンセプチュアルスキル」がそれぞれ求められるようになる。

 特に問題となるのは,「コンセプチュアルスキル」をトレーニングする場を持たずに管理職に昇進させてしまうことだ。

 多くの組織で,「管理職に必要なスキルを持っていないがどうすればよいだろうか?」という相談をよく受ける。よくよく聞いてみれば,大抵はこの「コンセプチュ アルスキル」不足に行き当たる。

 前述の「P行動」や「M行動」の強化も,この「コンセプチュアルスキル」のブラッシュアップも,単発の集合研修などで解決しないのは自明だ。

 人事マネジメントとして重要なのは,職務を通じてこれらの能力を磨く場を与えることである。

 例えば,管理職昇進前の一定期間,管理部門の経験を必ず積ませて抽象概念を扱う機会を持たせる,人事評価にP行動やM行動を加えるなど,組織のシステムにビ ルトインする強化策が必要なのである。

 

( 参考文献:三隅二不二『リーダーシップ行動の科学』有斐閣1984

ロバート・L.カッツ「スキルアプローチによる優秀な管理者への道」/『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』ダイヤモンド社 1982年 )

 

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「会社では教えてもらえない アウトプットがすごい人の時短のキホン」12/18発売開始

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会社では教えてもらえないアウトプットがすごい人の時短のキホン

拙著「会社では教えてもらえない アウトプットがすごい人の時短のキホン」(すばる舎)がいよいよ12/18に発売される。

 

この本は本当に難産だった。

 

すばる舎の人気シリーズ「会社では教えてもらえないシリーズ」の最新刊になり、拙著でシリーズ13作目になる。メインターゲットは若いビジネスパーソンだ。

普段あまり本を読まない人にも手軽に読んでもらえるようイラストをふんだんに使い、読み易い本を志向したシリーズだ。

 

だから、極力平易な言葉、わかりやすい文章で書かなければならなかった。

 

実はこれが非常に難しい。

 

これまで、このような平易な言葉で書かれた本を心のどこかで馬鹿にしていたのだろう。いざ作り手になってみると、ことのほか難しい作業で驚いた。

 

平易な言葉を使いつつ、内容が薄くならないように気を付けなければならない。でも、少し内容を盛り込みすぎると、途端に小難しい本になってしまう。

 

だから、編集者は思わず文章に手を入れようとする。

でも、私は文章に手を入れられるのを嫌がり(書き手の意図が変わってしまうことが多い)、すぐに不機嫌になる。編集者もさぞかし大変な思いをしたことだろう。

 

本日、刷り上がった本が届いた。書店には来週あたりから徐々に配本されるはずである。

黒を基調とした表紙は思ったより目立つというのが第一印象だ。

やはり、出来上がった本を見ると喜びもひとしおだ。

 

あらためて中身を読んでみると、毎日遅くまで頑張っている若いビジネスパーソンに向けた、私の心からの応援メッセージが凝縮されている。我ながらいい出来だと思う。

 

類書は多いが、「上司との関係」が時短のコツの一つだと説くモノは存外少ない。

そこに本書のオリジナリティがあると思う。

ぜひ手に取って読んでいただきたい。

 

会社では教えてもらえない アウトプットがすごい人の時短のキホン

会社では教えてもらえない アウトプットがすごい人の時短のキホン

 

 

 

 

 

 

 

 

給与を上げても モチベーションは高まらない? 「動機づけ衛生理論」/人事のモヤモヤがスッキリする学術理論④/月刊人事マネジメント寄稿連載記事

月刊人事マネジメント2019年11月号に私の寄稿記事の転載許可が下りたので、紹介することとしたい。

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人事のモヤモヤがスッキリする学術理論

給与を上げてもモチベーションは高まらない?

 「動機づけ衛生理論」 

 「優秀な人に高い給与を払わないとモチベーションが上がらない」

 「賞与で差をつけないと士気が落ちる」

    人事担当者やライン管理職からよくこんな話を聞く。

 さも常識のような口調で語られる金銭面とモチベーションの関係だが,果たして本当だろうか?

 給与や福利厚生を良くすることが社員のモチベーションを上げ,高い成果に結びつくなら人事管理は至って簡単だ。

 現実はそう単純ではないのでモヤモヤしてしまう。

 今回は,そんな時に役立つ,「動機づけ衛生理論」を紹介したい。

 

<不満足を解消してもモチベーションは上がらない> 

 アメリカの心理学者フレデリック・ハーズバーグは,仕事における満足と不満足を引き起こす要因に関する研究を行った。

 ハーズバーグは,仕事に満足を感じるもの(動機づけ要因),不満足を感じるもの(衛生要因)にはどのようなものがあるのかを調べた。

 その結果,満足を感じるもの(動機づけ要因),不満足を感じるもの(衛生要因)が全く別系統であることを突き止めたのである。

 もう少し分かりやすくいうと,不満足を解消しても,動機づけにはつながらないし,不満足要因を放置したままでも動機づけは可能だということだ。

 例えば,職場の椅子が壊れていれば社員は不満足を感じる。

 椅子を修理すると不満足は解消されるが,イスを修理したぐらいで社員が急にやる気になるわけではない。

 一方,イスが故障したまま(不満足を抱えたまま)でも,仕事ぶりを褒めるなどで社員のモチベーションを高められる。

 このように不満足を感じる要因と動機づけに効く要因は別系統のものという発見は,人事管理上,極めて重要な示唆を与えてくれる。

 

<給与や労働条件は衛生要因> 

 ハーズバーグは調査の結果,図のように,「企業の方針」「監督」「監督者との関係」といった不満足要因(衛生要因)を明らかにしている。

 これらの衛生要因を放置すると社員の不満足は次第に高まり,最終的には離職に結びつく可能性があるため,全く放置していいわけではない。

 だからといって,不満足の解消に成功しても,社員のモチベーションを高められない点には留意が必要だ。

 ここで非常に重要な点は,「労働条件」や「給与」が不満足要因(衛生要因)となっている点である。

 冒頭述べたように,モチベーションと給与・賞与などの関係は常識のように議論されている。

 しかし,給与を含めた労働条件は不満足要因(衛生要因)であり,支給額を上げたとしても不満の解消にしかならず,必ずしもモチベーションを高められるわけではな いのである。

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<動機づけはお金以外で>  

 ハーズバーグが動機づけ要因に分類したものは,「仕事の達成感を感じること」「周囲から認められること」「仕事そのもの」「責任感を引き受けて全うすること」「功 績が認められて昇進すること」「自己の成長を実感すること」などである。

 これらは,いずれも金銭的な報酬ではなく,本人の承認欲求や,自己実現欲求を刺激することだ。

 モチベーションアップを声高に叫ぶ企業ほど,上司が部下を褒める取り組みが十分ではないように思える。

 モチベーションアップに効果的でお金もかからない「褒める」ことは捨て置かれ,効果の薄い給与・賞与の議論ばかりに注目が集まる のは皮肉なものだ。

 成果主義が一気に広まったとき,人事評価結果が給与や賞与により強く反映され,処遇格差が拡大した。

 その際,目的の一つに,社員のモチベーションアップを掲げる企業が多かったが,ハーズバーグの理論に照らせば,うまくいかないのは必然だろう。

 

<人事評価も運用次第> 

 精緻な人事評価制度を構築し,手間暇をかけて運用しても,結果の用い方一つでその効用が大きく変わることを本理論は示唆している。

 動機づけ衛生理論に照らせば,社員のモチベーションを上げるには,評価のフィードバックを適切に行ったり(褒めたり,認めたり),皆の前で表彰したりするほうがは るかに動機づけには効果的なことが分かる。

 評価結果を工夫してフィードバックするのではなく,給与や賞与の支給額ばかりに反映しているようではモチベーションを高められない。

 評価以前に,上司が日常のマネジメントを通じて部下の仕事ぶりをつぶさに観察し,認めてあげることが何より重要なのである。

 

<内発的動機づけを> 

 内面からやる気が湧き出ている状態を「内発的に動機づけられた状態」という。社員をこのような状態に持っていくのは人事マネジメントの一つの理想だ。

 しかし,金銭的報酬を外部からちらつかせると,内発的動機が減じてしまう。

 デシはこれを「アンダーマイニング効果」と呼び,マネジメント上避けるべきだと説いている。

 金銭の多寡がモチベーションアップにつながらないという研究は一つではないのである。

 

(参考文献:フレデリック・ハーズバーグ 「モチベーションとは何か」 / DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部『動機づける力』ダイヤモンド社2005年/ エドワード L.デシ『内発的動機づけ─実験社会心理学的アプローチ』誠信書房1980年)

 

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最適な雇用形態の組み合わせは? 「人的資源アーキテクチャー理論」/人事のモヤモヤがスッキリする学術理論③/月刊人事マネジメント寄稿連載記事

月刊人事マネジメント2019年10月号に私の寄稿記事の転載許可が下りたので、紹介することとしたい。

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人事のモヤモヤがスッキリする学術理論

第3回 最適な雇用形態の組み合わせは?

 「人的資源アーキテクチャー理論」 

 「この仕事なら派遣社員でよい」

 「辞められると困るので正社員で採用しよう」

 「リスクがあるので契約社員で」

 など,その都度の判断で採用する人材の雇用形態を決めている企業が少なくない。特に中小企業はその傾向が顕著だ。

 明確なポリシーを持たずに場当たり的に採用していると,正社員,派遣労働者,パートタイマーが肩を並べて同じ仕事をする歪な組織が出来上がる。

 こういう状態になると,働く側も,採用する側もモヤモヤしてしまう。

 今回は,そんな時に役立つ,「人的資源アーキテクチャー理論」を紹介したい。

 

<多彩な人材ポートフォリオ論> 

 企業は戦略実現のためにどのような人材が必要なのか,その要件を明確にし,必要な人材を組み合わせて活用しなければならない。

 このような人材の組み合わせに関する考え方を総称して,「雇用ポートフォリオ戦略」または「人材ポートフォリオ論」と呼ぶ。

 代表的なものに,「柔軟な企業モデル」(J.アトキンソン,1985),「雇用ポートフォリオ論」(日経連,1995),「人的資源アーキテクチャー」(Lepak&Snell,1999),「人材ポートフォリオ」(リクルートワ ークス研究所,2000)などがある。

 これらの理論は分析軸の設定などで枠組み上の差はあるものの,職務の性質に応じて,これまでのように正社員一辺倒から,有期雇用や外部資源の活用までを視野に 入れ,柔軟に雇用管理を行うべきだと提言している点で共通している。

 日本では,日経連の雇用ポートフォリオ論が多くの企業に影響を与えたモデルとして,特に有名だ。

 しかし,日経連のモデルでは,勤続の長短のみが分析軸になっており,雇用形態の組み合わせを分析する際,必ずしも十分な情報を与えてくれない。

 なぜなら,さまざまな雇用形態を組み合わせて人材の充足を図るには,募集ポジションの職務を遂行するのに必要なスキル,そのスキルを持つ人材の希少性や流動性,スキル習熟に要する期間,仕事量,その業務の秘匿性など,さまざまな要素を細かく分析しなければならないからだ。

 

<人的資源アーキテクチャー> 

 前記の4つの人材ポートフォリオ理論の中でも,実践的で特にオススメなのがLepak&Snellの「人的資源アーキテクチャー」だ。

 「人的資源アーキテクチャー」では,図のように縦軸に「人材の希少性」を,横軸に「人材の価値」を設定し,これら2 軸を用いて人材を4 つのグループに分類して捉 えようとする理論だ。

 縦軸の「人材の希少性」は,その人材が労働市場で採用しやすいかどうかという観点だ。

 採用しにくければ希少性は「高く」,逆に採用しやすければ希少性は「低い」と評価する。

 横軸の「人材の価値」は,その企業にとって,そのポジションは重要か?という観点である。

 外注できないコア業務なら人材の価値は「高く」,逆にすぐに代替されるような業務なら人材の価値は「低い」と評価される。

 この2 軸で分類できる4つのグループが,①内部育成,②外部からの調達,③アウトソースの活用,④外部との提携だ。

 

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<人材の希少性>  

 縦軸の「人材の希少性」は,当該人材が労働市場で容易に調達できるか否かで判断する。

 一般的に,どの企業でも共通する汎用的職務に従事している人材は労働市場から調達しやすい。

 例えば,経理の仕訳の仕事は簿記知識に基づいて行うもので,どの企業に行っても仕事内容は共通している。従って,労働市場から探すのは比較的容易で,希少性は 「低い」。

 一方で,企業特殊的能力(その企業でしか身につけられない経験・能力)や非常に特殊なスキル・経験を持った人は外部労働市場から獲得しにくく,希少性は「高い」。

 

<4 つのグループの適用> 

 「人的資源アーキテクチャー」に当てはめて考えてみると,従業員3名の飲食業においては,経理の仕訳担当者は「人材の希少性」「人材の価値」ともに「低い」ので,「アウトソースの活用」を選択することになる。

 人材を採用するより,会計事務所の記帳代行サービスなどを頼ればよいのだ。

 逆に会計事務所にとっては,「人材の希少性」は「低い」けれど,「人材の価値」は「高い」ため,「外部からの調達」を選択することになる。

 つまり,労働市場からスキルを備えた人を獲得(中途採用)すればよい。

 同じように,訴訟事務に従事する法務担当の例を考察してみる。

 訴訟事務をこなせる法務担当者は縦軸の「人材の希少性」が高く,労働市場から調達が難しい。

 横軸の「人材の価値」を判断することになるが,めったに訴訟な ど経験しない企業にとっては,法務担当の価値は低いので,「外部との提携」を選択することになる。

 つまり,訴訟沙汰が起これば,その都度,弁護士事務所などを頼ればよいのだ。

 逆に,弁護士事務所にとっては,訴訟事務に精通している担当者は非常に価値の高い人材となるが,労働市場からの調達が困難なた め,「内部育成」を選択せざるをえない。

 新卒や若い人材を採用し,長期で育成せざるをえないのだ。

 

<外部環境を冷静に判断> 

 このように「人的資源アーキテクチャー」は,縦横の2 軸で明確にポートフォリオを決定でき,分かりやすく実践的だ。

 しかし,人材の希少性や人材の価値は企業を取り巻く環境によって変化することに留意しておかねばならない。特に人材の調達難易度を見誤ると前提が崩れてしまう ので,注意が必要である。

 

(参考文献:David P. Lepak and Scott A. Snell The Human Resource Architecture: Toward a Theory of Human Capital Allocation and Development 1999 "J.Atkinson" “Flexibility,Uncertainty,and ManpowerManagement,” IMS Report, No.89 1985 リクルートワークス研究所「事業戦略と人材ポートフォリオ研究報告-勝ち組企業 ヒアリング 調査結果からの考察」2000年新・日本的経営システム等研究プロジェクト編 日経連「新時代の『日本的経営』」1995年)

 

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失敗の原因は何のせい? 「原因帰属理論」/人事のモヤモヤがスッキリする学術理論②/月刊人事マネジメント寄稿連載記事

月刊人事マネジメント2019年9月号に私の寄稿記事の転載許可が下りたので、紹介することとしたい。

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人事のモヤモヤがスッキリする学術理論

第2回 失敗の原因は何のせい?

 「原因帰属理論」 

 「部下が失敗をやらかした」「目標が未達だった」,こういうとき,上司としては指導方法に悩むものだ。

 どうすれば本人のやる気を引き出し,改善につなげられるのだろうか?

 あるいは,部下の性格に合わせて話の内容を変えるべきなのだろうか?

上司としては悩みが尽きず,すっきりしない。

 今回は,そんな時に役立つ,「原因帰属理論」を紹介したい。

 

<失敗は認知的不協和を生む>  

 仕事で失敗したり,目標を達成できなかったりした時,部下の心の中では「認知的不協和」が生じている。

 「認知的不協和」とは,一種の葛藤や矛盾のことだ。

 「成し遂げなければならない使命感」と「成し遂げられなかった事実」という,相反する事柄を認識し,「不協和」(不快)が心の中で生じるのである。

 これを乗り越えるために,人はその原因を見つけ出し,自分を納得させることで,気持を落ち着かせ,葛藤を乗り越えようとする。

 そのあたりの心の機微を分析したのが,心理学者ワイナーの原因帰属理論だ。

 

<成功や失敗の原因は?>  

 図表のワイナーの原因帰属理論では,成功や失敗の原因を「統制の所在」と「安定性」の二次元で分類している。

 「統制の所在」は,原因を内的とみなすか外的とみなすか,つまり,自分でコントロール可能かどうかだ。

 一方,「安定性」は変動しやすいかどうかである。

 これらの分類によれば,1. 自分がコントロールでき,かつ安定している原因は「能力」であり,2.自分がコントロールできるが不安定な(常に一定レベルを保つのは難しい)原因は「努力」である。

 一方,3. 自分でコントロールできないが,安定している原因は「課題の難度」(仕事の難しさ)であり,4. 自分でコントロールで きないうえに不安定な原因は「運」となる。

 試験に落ちた時,「頭が悪かったから」というのは「1.能力」に,「勉強不足だった」というのは「2.努力」に,「問題が難しかったから」というのは「3.課題の難度」に, 「たまたま」というのは,「4.運」に,それぞれ原因帰属させているのである。

 

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<原因帰属と動機づけ>  

 仕事の成功や失敗をどこに帰属させるかによって,部下のモチベーションは大きく変わってくる。

 ワイナーによれば,「統制の所在」は自尊感情に,「安定性」は次課題の成功や失敗の期待に,それぞれ影響を及ぼし,達成行動の動機づけを決めるとしている。

 「成功」の原因は安定的で内的なもの(能力)に帰属すると,次の行動に対する期待が最も高くなり,動機づけは最高になる。

 一方で「失敗」の原因を,不安定で内的なもの(努力)に帰属すると,次の課題に対して動機づけを高めるとされている。

 仕事の成功を「能力」に帰属させると,「有能感」や「再現性の期待」を同時に高めることができるが,仕事が簡単だった(課題の難度)とか,偶然(運)という原 因に帰属させると,「有能感」や「再現性の期待」を満足させられず,モチベーションは高まらない。

 一方,仕事の失敗を「努力」に帰属させると,「有能感」を傷つけず,「失敗再現の恐れ」を低減することができる。

 しかし,仕事が難しかった(課題の難度)とか,偶然(運)という原因に帰属させると,「有能感」は傷つけないが,自分自身でコントロールできない原因であるた め,「失敗再現の恐れ」を低減することはできず,次の課題に対するモチベーションが高まらない。

 これらのことは,日常の部下とのコミュニケーションにおいて,極めて重要な示唆を与えてくれる。

 

<成功した場合の褒め方>  

 日本人,特に男性の場合,部下をあからさまに褒めない。

 そのうえ,「今回は偶然にも状況が追い風でうまくいったが,異なる状況でも対応できるよう気を引き締めておくように」と,本人の「能力」よりも「外部」に原因 を帰属させることが多い。

 部下の慢心を招かないようにという配慮や,謙虚さを美徳とする日本人らしい感覚といえるだろう。

 しかし,これでは「有能感」や「再現性の期待」は高まらず,動機づけに有効な褒め方とはいえない。

 本人が安定的に発揮している能力を成功要因として褒めるほうがモチベーションは高まるのである。

 提案力,分析力,企画書作成能力,プレゼン能力など顕在化した発揮能力と成果を結びつけて認めてやるのである。

 

<失敗した場合のフィードバック>  

 一方,失敗については,「たまたま運が悪かっただけだから,次回頑張れ!」というように「外部」の原因に帰属させ,励ましているケースをよく見かける。

 あるいは,「分析力が足りない」「根性が足りない」などと,「能力」(時には人格部分)に原因を帰属させて叱責するケースも見受けられる。

 前者は「失敗再現の恐れ」を低減できず,後者は「有能感」を傷つけるため,モチベーションは下がってしまう。

 そうではなくて,本人の「努力」に原因を帰属させ,共感的に反省を促すことが不可欠である。

 この場合,上司が直接問題点を指摘することは避けたほうがよい。

 「何が問題だったか」「一体どうすればよかったのか」を部下の口から語らせ,内省を促すのだ。

 上司が指摘せずとも,正しい答えは実務者である部下が一番知っているからだ。

 

 要するに,仕事の成功を褒める時には,本人の「能力」を褒め,失敗の反省を促す際には,本人の投入した「努力」の量と質について内省を促すことが重要だ。

 それにもかかわらず,日頃のマネジメントは正反対のアプローチをとっている上司が実態として本当に多い。

 「原因帰属理論」は日常の部下指導や目標面接などさまざまなシーンで,活用できる有用な理論といえるだろう。

 

(参考文献:バーナード ワイナー(著),宮本 美沙子・林 保(翻訳)『ヒューマン・モチベーション―動機づけの心理学』金子書房,1989年)

 

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未経験の新卒の適性って? 「適性の三側面理論」/人事のモヤモヤがスッキリする学術理論①/月刊人事マネジメント寄稿連載記事

月刊人事マネジメント2019年8月号に私の寄稿記事の転載許可が下りたので、紹介することとしたい。

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人事のモヤモヤがスッキリする学術理論

第1回 未経験の新卒の適性って?

 「適性の三側面理論」 

 「人は千差万別なので理屈では割り切れない」,そういって人事マネジメント上の課題に蓋をする姿勢では,いつまで経ってもモヤモヤは解決できない。

そんな時こそ,アカデミックなセオリーを学んでみてはどうだろう。理論を学ぶことで,頭の中の霧が晴れることがあるからだ。  

 連載の第1 回は「適性の三側面理論」を紹介したい。 

 

<モヤモヤする採用基準>  

 求人媒体のコマーシャルを見ていると,「優秀な人材」「あなたの会社にピッタリの人」という言葉が躍っている。

 企業の新卒採用担当者に「どんな人材を採用したいのか?」と聞くと,「優秀な学生」「うちの会社のカラーになじむ学生」というように,抽象的でよく分からない人材像が並ぶ。

 「優秀さ」の定義も,「馴染む」という状態もイメージしにくく,上滑りで軽薄な印象を受ける。

 逆に,採用したい学生像を能力レベルで事細かに定義する企業もあるが,なぜかスクリーニングの際には役に立たない。

 そこでまず,「適性」について,アカデミックな視点で考えてみたい。

 

 <適性とは何か?>  

 「適性」という概念は,日米でかなり捉え方に違いがある。ここでは詳しくは述べないが,アメリカでは,「職業適合性」の一要素として「能力」を挙げ,その構成要素として「適性」と「技量」を挙げている。

 「適性」はさらに「知能」「近くの早さ・正確さ」「精神運動機能」に分解されている(図表1 )。

 要は「職業適合性」の一要素である「能力」のさらに一部分として「適性」を捉えているのである。

       f:id:a-kagamiglodeacojp:20190906114536p:plain

 一方,日本では,「適性」は「能力」だけでなく「人格全体」を視野に入れた概念として捉えている。それを端的に示したのが,「適性の三側面モデル」(大沢,1989)だ。

 図表2 のように適性を,①仕事をこなせるかという「職務適応」,②職場になじめるかという「職場適応」,③自分が関心・興味を持ってやり続けられるかという「自己適応」の三側面から分類するモデルだ。

 

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 「職務適応」は仕事がこなせるかどうかなので,能力(知識,技能,経験)が問われ,「能力的適性」と呼ばれる。

 「職場適応」は職場になじめるかどうかなので,気質や性格が問われ,「性格的適性」と呼ばれる。

 「自己適応」はその仕事に関心・興味を持ち続けられるかどうかなので,興味や価値観,意欲などが問われ,「態度的適性」と呼ばれる。

 この3 つのうち,どれが欠けても仕事は長続きしない。定着する人材を採用するためには,この「適性の三側面」を充足させる人材を採用しなければならない。

 

 <新卒の「職務適応」の確認>  

 新卒の場合,「職務適応」を確認しようにも,職務関連知識も,技能も,経験も,何の積み上げもない。従って,原則として「職務適応」は確認しにくい。

 理系学生を技術職採用する場合,「研究内容」が「職務適応」に直結するが,文系採用では履修分野から「職務適応」をほぼ予見できない。従って,「職務適応」は,基礎能力としての「知能」を適性検査か学歴で確認するくらいだ。

 

 <新卒の「職場適応」の確認>  

 職場適応は「性格的適性」なので,その職場になじむことができる気質や性格を備えているかどうかの確認をすることになる。

 しかし,そもそも,どのような性格を備えていれば,その職場になじむかは定義が難しく,曖昧で言語化しにくい。そのうえ,マッチする性格は職場単位で違うはずなのに,企業で一括りに定義するのは無理がある。

 性格の類型化は限界があるので,採用基準や人材像の定義が抽象的になる。採用担当者が「うちの会社のカラーになじむ人」といった曖昧な話をするのはこのためだ。

 

 <新卒の「自己適応」の確認>  

 「自己適応」はその仕事に関心・興味を持ち続けられるかどうかなので,興味・志向,価値観,意欲などを確認していくことになる。

 自社への志望動機や業界に興味 を持った理由,どのような職業観 があるのかを面接や適性検査など を通じて引き出していく。

 しかし,多くの採用担当者は,「自己適応」の確認のためにこれらの質問をしている意識が薄い。

 なお,興味・志向と自己適応の関連は,これら3 つの適応性の中で,一番研究が進んでおり,高い妥当性を持つ適性検査が多く開発されている。

 ちなみに,多くの企業で取り入れられている「エントリーシート」は,3 つの適応のうち,この「自己適応」の予見に用いることができる。

 エントリーシートに記述される内容から,自社や業界に関心・興味を持っているかを判定できるからだ。

 しかし,「能力適応」も「性格適応」も判定しにくい(一部,文章から知能を判断できるのみ)。従って,エントリーシートを用いて「優秀な人材を見抜く」などという謳い文句には無理があるだろう。

 

 <新卒の「自己適応」の確認>  

 以上のように,新卒の場合,「能力適応」は職務経験がないため確認できない(知的適性検査や学歴から知能を判定するのみ)。

 「性格適応」は言語化しにくく,採用担当者側の感性頼りになる。

 唯一「自己適応」だけが,興味や関心から予見しやすい。

 キャリア採用では「能力適応」をシビアに見ることができるので,人材像や採用基準が比較的明確だ。

 それに比べ,新卒採用における採用基準は曖昧模糊としている。その理由は「適性の三側面理論」から考えるとよく分かるのだ。

 離職者が出た際に,退職理由をこの三側面から確認するのも,人事マネジメントのPDCAを回すうえで有用である。

(参考文献:大沢 武志『採用と人事測定』朝日出版社 1989年D.E.スーパー,M.J.ボーン/著,藤本喜八,大沢武志/訳『職業の心理』ダイヤモンド社 1973年)

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