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最適な雇用形態の組み合わせは? 「人的資源アーキテクチャー理論」/人事のモヤモヤがスッキリする学術理論③/月刊人事マネジメント寄稿連載記事

月刊人事マネジメント2019年10月号に私の寄稿記事の転載許可が下りたので、紹介することとしたい。

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人事のモヤモヤがスッキリする学術理論

第3回 最適な雇用形態の組み合わせは?

 「人的資源アーキテクチャー理論」 

 「この仕事なら派遣社員でよい」

 「辞められると困るので正社員で採用しよう」

 「リスクがあるので契約社員で」

 など,その都度の判断で採用する人材の雇用形態を決めている企業が少なくない。特に中小企業はその傾向が顕著だ。

 明確なポリシーを持たずに場当たり的に採用していると,正社員,派遣労働者,パートタイマーが肩を並べて同じ仕事をする歪な組織が出来上がる。

 こういう状態になると,働く側も,採用する側もモヤモヤしてしまう。

 今回は,そんな時に役立つ,「人的資源アーキテクチャー理論」を紹介したい。

 

<多彩な人材ポートフォリオ論> 

 企業は戦略実現のためにどのような人材が必要なのか,その要件を明確にし,必要な人材を組み合わせて活用しなければならない。

 このような人材の組み合わせに関する考え方を総称して,「雇用ポートフォリオ戦略」または「人材ポートフォリオ論」と呼ぶ。

 代表的なものに,「柔軟な企業モデル」(J.アトキンソン,1985),「雇用ポートフォリオ論」(日経連,1995),「人的資源アーキテクチャー」(Lepak&Snell,1999),「人材ポートフォリオ」(リクルートワ ークス研究所,2000)などがある。

 これらの理論は分析軸の設定などで枠組み上の差はあるものの,職務の性質に応じて,これまでのように正社員一辺倒から,有期雇用や外部資源の活用までを視野に 入れ,柔軟に雇用管理を行うべきだと提言している点で共通している。

 日本では,日経連の雇用ポートフォリオ論が多くの企業に影響を与えたモデルとして,特に有名だ。

 しかし,日経連のモデルでは,勤続の長短のみが分析軸になっており,雇用形態の組み合わせを分析する際,必ずしも十分な情報を与えてくれない。

 なぜなら,さまざまな雇用形態を組み合わせて人材の充足を図るには,募集ポジションの職務を遂行するのに必要なスキル,そのスキルを持つ人材の希少性や流動性,スキル習熟に要する期間,仕事量,その業務の秘匿性など,さまざまな要素を細かく分析しなければならないからだ。

 

<人的資源アーキテクチャー> 

 前記の4つの人材ポートフォリオ理論の中でも,実践的で特にオススメなのがLepak&Snellの「人的資源アーキテクチャー」だ。

 「人的資源アーキテクチャー」では,図のように縦軸に「人材の希少性」を,横軸に「人材の価値」を設定し,これら2 軸を用いて人材を4 つのグループに分類して捉 えようとする理論だ。

 縦軸の「人材の希少性」は,その人材が労働市場で採用しやすいかどうかという観点だ。

 採用しにくければ希少性は「高く」,逆に採用しやすければ希少性は「低い」と評価する。

 横軸の「人材の価値」は,その企業にとって,そのポジションは重要か?という観点である。

 外注できないコア業務なら人材の価値は「高く」,逆にすぐに代替されるような業務なら人材の価値は「低い」と評価される。

 この2 軸で分類できる4つのグループが,①内部育成,②外部からの調達,③アウトソースの活用,④外部との提携だ。

 

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<人材の希少性>  

 縦軸の「人材の希少性」は,当該人材が労働市場で容易に調達できるか否かで判断する。

 一般的に,どの企業でも共通する汎用的職務に従事している人材は労働市場から調達しやすい。

 例えば,経理の仕訳の仕事は簿記知識に基づいて行うもので,どの企業に行っても仕事内容は共通している。従って,労働市場から探すのは比較的容易で,希少性は 「低い」。

 一方で,企業特殊的能力(その企業でしか身につけられない経験・能力)や非常に特殊なスキル・経験を持った人は外部労働市場から獲得しにくく,希少性は「高い」。

 

<4 つのグループの適用> 

 「人的資源アーキテクチャー」に当てはめて考えてみると,従業員3名の飲食業においては,経理の仕訳担当者は「人材の希少性」「人材の価値」ともに「低い」ので,「アウトソースの活用」を選択することになる。

 人材を採用するより,会計事務所の記帳代行サービスなどを頼ればよいのだ。

 逆に会計事務所にとっては,「人材の希少性」は「低い」けれど,「人材の価値」は「高い」ため,「外部からの調達」を選択することになる。

 つまり,労働市場からスキルを備えた人を獲得(中途採用)すればよい。

 同じように,訴訟事務に従事する法務担当の例を考察してみる。

 訴訟事務をこなせる法務担当者は縦軸の「人材の希少性」が高く,労働市場から調達が難しい。

 横軸の「人材の価値」を判断することになるが,めったに訴訟な ど経験しない企業にとっては,法務担当の価値は低いので,「外部との提携」を選択することになる。

 つまり,訴訟沙汰が起これば,その都度,弁護士事務所などを頼ればよいのだ。

 逆に,弁護士事務所にとっては,訴訟事務に精通している担当者は非常に価値の高い人材となるが,労働市場からの調達が困難なた め,「内部育成」を選択せざるをえない。

 新卒や若い人材を採用し,長期で育成せざるをえないのだ。

 

<外部環境を冷静に判断> 

 このように「人的資源アーキテクチャー」は,縦横の2 軸で明確にポートフォリオを決定でき,分かりやすく実践的だ。

 しかし,人材の希少性や人材の価値は企業を取り巻く環境によって変化することに留意しておかねばならない。特に人材の調達難易度を見誤ると前提が崩れてしまう ので,注意が必要である。

 

(参考文献:David P. Lepak and Scott A. Snell The Human Resource Architecture: Toward a Theory of Human Capital Allocation and Development 1999 "J.Atkinson" “Flexibility,Uncertainty,and ManpowerManagement,” IMS Report, No.89 1985 リクルートワークス研究所「事業戦略と人材ポートフォリオ研究報告-勝ち組企業 ヒアリング 調査結果からの考察」2000年新・日本的経営システム等研究プロジェクト編 日経連「新時代の『日本的経営』」1995年)

失敗の原因は何のせい? 「原因帰属理論」/人事のモヤモヤがスッキリする学術理論②/月刊人事マネジメント寄稿連載記事

月刊人事マネジメント2019年9月号に私の寄稿記事の転載許可が下りたので、紹介することとしたい。

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人事のモヤモヤがスッキリする学術理論

第2回 失敗の原因は何のせい?

 「原因帰属理論」 

 「部下が失敗をやらかした」「目標が未達だった」,こういうとき,上司としては指導方法に悩むものだ。

 どうすれば本人のやる気を引き出し,改善につなげられるのだろうか?

 あるいは,部下の性格に合わせて話の内容を変えるべきなのだろうか?

上司としては悩みが尽きず,すっきりしない。

 今回は,そんな時に役立つ,「原因帰属理論」を紹介したい。

 

<失敗は認知的不協和を生む>  

 仕事で失敗したり,目標を達成できなかったりした時,部下の心の中では「認知的不協和」が生じている。

 「認知的不協和」とは,一種の葛藤や矛盾のことだ。

 「成し遂げなければならない使命感」と「成し遂げられなかった事実」という,相反する事柄を認識し,「不協和」(不快)が心の中で生じるのである。

 これを乗り越えるために,人はその原因を見つけ出し,自分を納得させることで,気持を落ち着かせ,葛藤を乗り越えようとする。

 そのあたりの心の機微を分析したのが,心理学者ワイナーの原因帰属理論だ。

 

<成功や失敗の原因は?>  

 図表のワイナーの原因帰属理論では,成功や失敗の原因を「統制の所在」と「安定性」の二次元で分類している。

 「統制の所在」は,原因を内的とみなすか外的とみなすか,つまり,自分でコントロール可能かどうかだ。

 一方,「安定性」は変動しやすいかどうかである。

 これらの分類によれば,1. 自分がコントロールでき,かつ安定している原因は「能力」であり,2.自分がコントロールできるが不安定な(常に一定レベルを保つのは難しい)原因は「努力」である。

 一方,3. 自分でコントロールできないが,安定している原因は「課題の難度」(仕事の難しさ)であり,4. 自分でコントロールで きないうえに不安定な原因は「運」となる。

 試験に落ちた時,「頭が悪かったから」というのは「1.能力」に,「勉強不足だった」というのは「2.努力」に,「問題が難しかったから」というのは「3.課題の難度」に, 「たまたま」というのは,「4.運」に,それぞれ原因帰属させているのである。

 

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<原因帰属と動機づけ>  

 仕事の成功や失敗をどこに帰属させるかによって,部下のモチベーションは大きく変わってくる。

 ワイナーによれば,「統制の所在」は自尊感情に,「安定性」は次課題の成功や失敗の期待に,それぞれ影響を及ぼし,達成行動の動機づけを決めるとしている。

 「成功」の原因は安定的で内的なもの(能力)に帰属すると,次の行動に対する期待が最も高くなり,動機づけは最高になる。

 一方で「失敗」の原因を,不安定で内的なもの(努力)に帰属すると,次の課題に対して動機づけを高めるとされている。

 仕事の成功を「能力」に帰属させると,「有能感」や「再現性の期待」を同時に高めることができるが,仕事が簡単だった(課題の難度)とか,偶然(運)という原 因に帰属させると,「有能感」や「再現性の期待」を満足させられず,モチベーションは高まらない。

 一方,仕事の失敗を「努力」に帰属させると,「有能感」を傷つけず,「失敗再現の恐れ」を低減することができる。

 しかし,仕事が難しかった(課題の難度)とか,偶然(運)という原因に帰属させると,「有能感」は傷つけないが,自分自身でコントロールできない原因であるた め,「失敗再現の恐れ」を低減することはできず,次の課題に対するモチベーションが高まらない。

 これらのことは,日常の部下とのコミュニケーションにおいて,極めて重要な示唆を与えてくれる。

 

<成功した場合の褒め方>  

 日本人,特に男性の場合,部下をあからさまに褒めない。

 そのうえ,「今回は偶然にも状況が追い風でうまくいったが,異なる状況でも対応できるよう気を引き締めておくように」と,本人の「能力」よりも「外部」に原因 を帰属させることが多い。

 部下の慢心を招かないようにという配慮や,謙虚さを美徳とする日本人らしい感覚といえるだろう。

 しかし,これでは「有能感」や「再現性の期待」は高まらず,動機づけに有効な褒め方とはいえない。

 本人が安定的に発揮している能力を成功要因として褒めるほうがモチベーションは高まるのである。

 提案力,分析力,企画書作成能力,プレゼン能力など顕在化した発揮能力と成果を結びつけて認めてやるのである。

 

<失敗した場合のフィードバック>  

 一方,失敗については,「たまたま運が悪かっただけだから,次回頑張れ!」というように「外部」の原因に帰属させ,励ましているケースをよく見かける。

 あるいは,「分析力が足りない」「根性が足りない」などと,「能力」(時には人格部分)に原因を帰属させて叱責するケースも見受けられる。

 前者は「失敗再現の恐れ」を低減できず,後者は「有能感」を傷つけるため,モチベーションは下がってしまう。

 そうではなくて,本人の「努力」に原因を帰属させ,共感的に反省を促すことが不可欠である。

 この場合,上司が直接問題点を指摘することは避けたほうがよい。

 「何が問題だったか」「一体どうすればよかったのか」を部下の口から語らせ,内省を促すのだ。

 上司が指摘せずとも,正しい答えは実務者である部下が一番知っているからだ。

 

 要するに,仕事の成功を褒める時には,本人の「能力」を褒め,失敗の反省を促す際には,本人の投入した「努力」の量と質について内省を促すことが重要だ。

 それにもかかわらず,日頃のマネジメントは正反対のアプローチをとっている上司が実態として本当に多い。

 「原因帰属理論」は日常の部下指導や目標面接などさまざまなシーンで,活用できる有用な理論といえるだろう。

 

(参考文献:バーナード ワイナー(著),宮本 美沙子・林 保(翻訳)『ヒューマン・モチベーション―動機づけの心理学』金子書房,1989年)

未経験の新卒の適性って? 「適性の三側面理論」/人事のモヤモヤがスッキリする学術理論①/月刊人事マネジメント寄稿連載記事

月刊人事マネジメント2019年8月号に私の寄稿記事の転載許可が下りたので、紹介することとしたい。

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人事のモヤモヤがスッキリする学術理論

第1回 未経験の新卒の適性って?

 「適性の三側面理論」 

 「人は千差万別なので理屈では割り切れない」,そういって人事マネジメント上の課題に蓋をする姿勢では,いつまで経ってもモヤモヤは解決できない。

そんな時こそ,アカデミックなセオリーを学んでみてはどうだろう。理論を学ぶことで,頭の中の霧が晴れることがあるからだ。  

 連載の第1 回は「適性の三側面理論」を紹介したい。 

 

<モヤモヤする採用基準>  

 求人媒体のコマーシャルを見ていると,「優秀な人材」「あなたの会社にピッタリの人」という言葉が躍っている。

 企業の新卒採用担当者に「どんな人材を採用したいのか?」と聞くと,「優秀な学生」「うちの会社のカラーになじむ学生」というように,抽象的でよく分からない人材像が並ぶ。

 「優秀さ」の定義も,「馴染む」という状態もイメージしにくく,上滑りで軽薄な印象を受ける。

 逆に,採用したい学生像を能力レベルで事細かに定義する企業もあるが,なぜかスクリーニングの際には役に立たない。

 そこでまず,「適性」について,アカデミックな視点で考えてみたい。

 

 <適性とは何か?>  

 「適性」という概念は,日米でかなり捉え方に違いがある。ここでは詳しくは述べないが,アメリカでは,「職業適合性」の一要素として「能力」を挙げ,その構成要素として「適性」と「技量」を挙げている。

 「適性」はさらに「知能」「近くの早さ・正確さ」「精神運動機能」に分解されている(図表1 )。

 要は「職業適合性」の一要素である「能力」のさらに一部分として「適性」を捉えているのである。

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 一方,日本では,「適性」は「能力」だけでなく「人格全体」を視野に入れた概念として捉えている。それを端的に示したのが,「適性の三側面モデル」(大沢,1989)だ。

 図表2 のように適性を,①仕事をこなせるかという「職務適応」,②職場になじめるかという「職場適応」,③自分が関心・興味を持ってやり続けられるかという「自己適応」の三側面から分類するモデルだ。

 

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 「職務適応」は仕事がこなせるかどうかなので,能力(知識,技能,経験)が問われ,「能力的適性」と呼ばれる。

 「職場適応」は職場になじめるかどうかなので,気質や性格が問われ,「性格的適性」と呼ばれる。

 「自己適応」はその仕事に関心・興味を持ち続けられるかどうかなので,興味や価値観,意欲などが問われ,「態度的適性」と呼ばれる。

 この3 つのうち,どれが欠けても仕事は長続きしない。定着する人材を採用するためには,この「適性の三側面」を充足させる人材を採用しなければならない。

 

 <新卒の「職務適応」の確認>  

 新卒の場合,「職務適応」を確認しようにも,職務関連知識も,技能も,経験も,何の積み上げもない。従って,原則として「職務適応」は確認しにくい。

 理系学生を技術職採用する場合,「研究内容」が「職務適応」に直結するが,文系採用では履修分野から「職務適応」をほぼ予見できない。従って,「職務適応」は,基礎能力としての「知能」を適性検査か学歴で確認するくらいだ。

 

 <新卒の「職場適応」の確認>  

 職場適応は「性格的適性」なので,その職場になじむことができる気質や性格を備えているかどうかの確認をすることになる。

 しかし,そもそも,どのような性格を備えていれば,その職場になじむかは定義が難しく,曖昧で言語化しにくい。そのうえ,マッチする性格は職場単位で違うはずなのに,企業で一括りに定義するのは無理がある。

 性格の類型化は限界があるので,採用基準や人材像の定義が抽象的になる。採用担当者が「うちの会社のカラーになじむ人」といった曖昧な話をするのはこのためだ。

 

 <新卒の「自己適応」の確認>  

 「自己適応」はその仕事に関心・興味を持ち続けられるかどうかなので,興味・志向,価値観,意欲などを確認していくことになる。

 自社への志望動機や業界に興味 を持った理由,どのような職業観 があるのかを面接や適性検査など を通じて引き出していく。

 しかし,多くの採用担当者は,「自己適応」の確認のためにこれらの質問をしている意識が薄い。

 なお,興味・志向と自己適応の関連は,これら3 つの適応性の中で,一番研究が進んでおり,高い妥当性を持つ適性検査が多く開発されている。

 ちなみに,多くの企業で取り入れられている「エントリーシート」は,3 つの適応のうち,この「自己適応」の予見に用いることができる。

 エントリーシートに記述される内容から,自社や業界に関心・興味を持っているかを判定できるからだ。

 しかし,「能力適応」も「性格適応」も判定しにくい(一部,文章から知能を判断できるのみ)。従って,エントリーシートを用いて「優秀な人材を見抜く」などという謳い文句には無理があるだろう。

 

 <新卒の「自己適応」の確認>  

 以上のように,新卒の場合,「能力適応」は職務経験がないため確認できない(知的適性検査や学歴から知能を判定するのみ)。

 「性格適応」は言語化しにくく,採用担当者側の感性頼りになる。

 唯一「自己適応」だけが,興味や関心から予見しやすい。

 キャリア採用では「能力適応」をシビアに見ることができるので,人材像や採用基準が比較的明確だ。

 それに比べ,新卒採用における採用基準は曖昧模糊としている。その理由は「適性の三側面理論」から考えるとよく分かるのだ。

 離職者が出た際に,退職理由をこの三側面から確認するのも,人事マネジメントのPDCAを回すうえで有用である。

(参考文献:大沢 武志『採用と人事測定』朝日出版社 1989年D.E.スーパー,M.J.ボーン/著,藤本喜八,大沢武志/訳『職業の心理』ダイヤモンド社 1973年)

掲載記事のPDFは=>こちら 

人事コンサルが見た吉本興業問題

世間では吉本興行問題で賑やかだ。

芸人、吉本興行側の双方の会見を経て、巷間、賛否両論様々な意見が飛び交っている。

反社会的勢力と最初どのようにしてつながったのか、本質的な問題が捨て置かれ、「芸人」対「吉本興行」の泥仕合の様相を見せている。

双方に立場と言い分があり、会見を聞いても十分な材料が揃ったわけではないし、よその会社の内紛を、義憤に駆られて外野があれこれ干渉すべき問題ではない。


しかし、この問題は組織内のコンフリクトそのものであり、「職場の紛争学 実践コンフリクトマネジメント(朝日新書)」を上梓した直後の私としては、触れずにおくわけにいかない。


どちらが正しいというジャッジは脇に置き、人事コンサルタントの立場からは、組織のマネジメント上の問題について考察したい。

 

この問題の根本には、芸人と吉本興行の契約問題が挙げられる。

報道では、契約が書面で締結されていないことばかり論じられているが、私が着目するのはそこではない。

 

「専属マネジメント契約」と呼ばれる契約が、

 ①芸人がマネジメントを吉本興行に委託する契約なのか、

 ②吉本興行が芸人に出演等を依頼する契約なのか、

 ③吉本興行が芸人を労働者として雇用する契約なのか、

が整理されておらず、双方あるいは外野までが、混同をきたし、時には自分たちの主張にとって都合が良いように解釈していることに問題がある。


①の場合は、芸人が依頼主、吉本興行はサービス提供事業者(委託先)となる。つまり、芸人は吉本興業のお客様となる。
よって、依頼主(お客様)である芸人が、サービス提供事業者から、「クビ」や「謹慎」させられるいわれはない。
また、「お客様」の不始末を業者(マネジメント部分のみの委託先)に過ぎない吉本興行が世間に謝罪するのは筋としておかしい。


②の場合は、芸人がサービス提供事業者(個人事業主)で、吉本興行がお客様だ。
「クビ」と声を上げなくても、シビアに、その芸人に仕事を発注しない判断を下せばよいだけだ。
労働者ではないので、「給料」という表現もおかしい。
ましてや、今、芸人の間で発足が議論になっている労働組合なんていうのも論外だ。
「取り扱い商品で迷惑をかけた」という意味で吉本興業が世間に謝罪するのは筋が通る。

③は、もはや逮捕級の労働基準法違反になってしまうので、そもそも成り立たない。
しかし、「給料」や「クビ」という言葉が平気で使われているあたり、世間では、自分たちが理解しやすい雇用契約を念頭に置いているきらいがある。
だから「ブラック企業」だとか、「労働基準監督署に駆け込め」なんていう的外れなコメントがSNSに書き込まれる始末だ。

 

現状では①~③がごちゃまぜになった契約概念で取り扱われており、関係者のだれもが整理できていないのではないだろうか。

 

いずれにせよ、これらの整理なしに吉本興行側を一方的に断罪するのは早計だろう。
吉本興業の落ち度は、契約の性格を明確にしないまま、口頭で諾成契約を結んでいると強弁していることだ。
また、これら3つの性格を局面ごとに「いいとこどり」して使い分けている点も気になる。


契約の性格をクリアにすれば、議論になっている生活保障や移籍の問題がクリアになる。
 ①の場合は、「自分という商品を専属で扱わせる」代償に最低保証を設定することはアリだろう。

 ②の場合には、芸人が金額をみて仕事を取捨選択すればよい。
その場合、「専属」をはずし、他の芸能事務所からも自由に仕事をもらえるようにすべきだろう。
市場原理が働く中なら、低いギャラでも問題はない。
しかし、「専属」として縛っておいて、低すぎるギャラしか与えないなら搾取と言われても仕方ない。

 ③の場合は、当然、労基法に定められた最低基準が適用されるし、移籍問題も同業他社への移籍に関する判例に倣えばよい。
ただ、芸人の仕事の性格に馴染むものではなく、もっとも現実味がないだろう。


これまで、契約書がなくて済んでいたのは、暗黙の了解を前提にしていたからだ。
しかし、経営層と若手芸人では、世代も異なり、価値観も大きく違うため、もはや暗黙の了解は通用しない。
このことから生じるコンフリクトは拙著(職場の紛争学 朝日新書)を参考にしてほしい。

 

吉本興業では、研修や冊子の配布でコンプライアンスを啓蒙しているという。
コンプライアンスとは倫理や社内規程といった法令以外も包括した概念だ。
だから「法令遵守」という日本語にはならず、「コンプライアンス」というカタカナ用語がそのまま使用されている。
倫理を重んじるというなら、書面の契約書は必須だろう。
それこそ、芸人の「労働者性」が認められれば重大な法令違反になってしまう。会社として身を守るためにも書面による契約は急がなければならない。

 

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今回、 会見を見て非常に残念に思ってのが、岡本社長の世論におもねった発言だ。
会社を守るために厳正に対応したなら、「パワハラと取られる言動には問題があったが、こういう信念のもとに厳正に対処した」と堂々と主張すればよかったのではないだろうか。

理屈で対処してきたなら、感情の議論にすり替わることなく、貫くべきだろう。

 

 

職場の紛争学 実践コンフリクトマネジメント (朝日新書)

職場の紛争学 実践コンフリクトマネジメント (朝日新書)

 

 

魔法の言葉「お急ぎですか?」

 

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前回「上司はあなたのto doリストを作っているわけではない」=>こちら の続き

 

 上司から「これやっておいて」と急に仕事を振られても、嫌な顔一つせず受けることで、キャパの大きさを誇示する人がいる。
 あるいは、理解力の高さやレスポンスの良さを示そうと、あまり深く考えずに「はい、はい」とふたつ返事で引き受けてしまう人もいる。


 いずれも上司に「反応」し、「反射」的に仕事を受けているといえる。
 でも、「反応」「反射」だけで仕事を受けていても、上司は決してあなたの能力を高く評価してくれない。


 それよりも、上司から軽い調子で「これやっておいて」と急な仕事を振られたときに、「お急ぎでしょうか?」とたった一言聞くだけで、状況は一変する。


「お急ぎでしょうか?」と聞かれた上司は、それこそ反射的に「この部下に今急ぎの仕事があっただろうか?」「何か無茶振りでもしたかな?」と身構え、緊張感を持つ。

 自然と「他に急ぎの仕事はあるの?」と上司から質問されるので、「今、急ぎの仕事としては、これとこれを抱えていますが、そちらのほうがお急ぎですか?」と相談してみよう。


 上司からすると、「はい、はい」と二つ返事で仕事を受ける部下は、「頼みやすい」部下だ。でも、ふたを開けてみれば、もっと急ぎの仕事を抱えていたり、キャパを超えてパンクしたりすると、「事前に相談してくれよ、まったく」と上司は頼りなく思う。


 一方、しっかり考えながら仕事を引き受け、優先順位をその場で確認してくる部下は、上司から見れば頼もしいのだ。また、そういう部下は、上司から無茶振りをされない。


 ただ、勘違いして欲しくないのだが、自分から仕事を断ったり、仕事を振られて嫌な顔をしたりしてはいけない。あくまで、上司の指示には前向きに応じる姿勢は示しつつ、手持ちのタスクの優先順位との兼ね合いを相談するのだ。


 上司の無茶振りに振り回され、予定がめちゃくちゃになって困っている、そんな人はぜひ「お急ぎでしょうか?」という魔法の一言を使ってみてはどうだろうか。

 

7/12に「職場の紛争学 実践コンフリクトマネジメント」(朝日新書)が発売されました!よろしくお願いします!!

 

職場の紛争学 実践コンフリクトマネジメント (朝日新書)

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サンプル本到着!

見本あがって来ました!
帯が面白い!
7/12発売!あと、一週間です!
よろしくお願いいたします!


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今月(7/12)朝日新書から発売予定の「職場の紛争学 実践コンフリクトマネジメント」もよろしくお願いします!!


 

職場の紛争学 実践コンフリクトマネジメント (朝日新書)

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上司はあなたのto doリストを作っているわけではない

「締め切り前の仕事がいくつかあって、まったく余裕がない。それなのにいつものように軽い口調で『これやっておいて』と急ぎの仕事を振られた。この上司はバカなのか?」


こんな風に上司を恨みながら仕事をしている人は多いものだ。

 マルチタスク型で仕事をしている場合、仕事の優先順位を台無しにするのが、上司からの飛び込み仕事だ。
 物理的に今の自分にこなせるわけがないのに仕事を振られたり、さっきまでこっちが最優先といっていたのに、急に「あっちを急げ」と言われたり、上司の気まぐれに振り回され、悩んでいる人は多いことだろう。
 
ではいったい、なぜこのようなことが起こるのだろうか?

 ちょっとショッキングな事実かも知れないが、それは上司があなたにどのような仕事を与えたのか覚えていないからだ。

 

 さすがに大筋では、あなたが何に取り組んでいるかくらいは把握している。でも、今どれだけの仕事を抱えているのか、何が最優先なのかまで、上司はイチイチ覚えていない。

 

 つまり、上司は自分の仕事のto doリストを作っていても、あなたのto doリストを作って管理しているわけではないのだ。


「そんな理不尽な!」と思うなら、逆にあなたは上司の仕事を把握しているだろうか?
たいていの人は上司が日々何をやっているか知らないと思う。

 たった一人の上司の仕事さえわからないのに、複数の部下を抱える上司が、部下一人ひとりの日々のタスクや優先順位まで把握しきれるわけがない。


 それを前提に上司と向き合って仕事をするほかない。


 では、上司の無理難題はあきらめて受け入れるほかないのだろうか?
 そんなことはない。あなたが仕事を受けるとき、ちょっとした工夫をすることで、上司をコントロールできるようになるのだ。

 それは次回に・・・。

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職場の紛争学 実践コンフリクトマネジメント (朝日新書)

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