キレてます(人事コンサルの日常など)

経営コンサルタント各務晶久が日々の雑感、ノウハウなんかを綴ります

月刊人事マネジメント寄稿記事)実例!人事のコンフリクトマネジメント1 オーナー社長 VS 大企業OB(2/2)

前回の続き(実例1 オーナー社長 VS 大企業OB の2回目)

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社長の視点 成果が絶対条件

 採用面接で「宣伝だけでなく,営業もできるので年齢は高いがぜひ使ってほしい」と武田氏が意欲を見せたので採用した。

「 1 から始める新規事業なので,私個人の預金を切り崩してあなたの給与を支払うことになる。売上が立たないとあなたの給料はすぐに払えなくなる。 3 ヵ月後に最低50万円の売上を上げる自信があるなら採用する」と契約前に具体的に説明していた。

 広告であれ営業であれ,方法は任せるので,自分の人件費を稼ぎ出すことが条件だったし,結果はシビアに求める約束だった。ほとんど社内にいないし,直行直帰も多い。経過報告もないが,大企業で部長まで務めた人なので,細かいことを言うよりも成果を示してもらうことにした。

 広告を出したいというので認めたが反響はゼロだった。反省どころか,「相場より大幅にコストダウン」したとアピールされる始末だ。今のパンフレットが粗末だというので更新を認めた。

 本来は不要な経費なのだが,これもコストダウン実績だと言う。くだらないアリバイをいくら並べたところで,彼の給料がどこからか湧いてくるわけではない。なぜこんな簡単なことが理解できないのだろう。

対立点の抽出 シビアさに温度差

 大企業では,武田氏 1 人くらいの人件費は何とでもなるが,零細企業ではそうはいかない。このことを武田氏は肌感覚で理解しておらず,売上よりも,取り組み方法や売上以外の貢献といった「身を守るための理屈」の準備から着手していた。大企業勤めで身についた処世術だ。

 武田氏は放任され,成果だけを求められる働き方に自らの考え方をアジャストできなかった。言い訳は通じず,売上のみに焦点が当たったので,社長を「売上至上主義」だと断じたのだ。 一方,社長は財務的な余裕がないため,ピンポイントで売上貢献を求めていた。武田氏に裁量を与え,やり方を完全に任せていたので,成果でしか判断しようがないともいえる。入社前に「成果をシビアに求める」と説明し, 3 ヵ月で契約更新を判断する約束なので,武田氏が必死で売上を追うものだと社長は信じ込んでいた。

 どの企業でも「成果をシビアに求める」というフレーズはよく使うが,「シビアさ」にはかなりの温度差がある。 1 つの言葉に双方が異なるイメージを抱き,不幸を生んだのだ。

人事部門の役割 双方のクッション役に

 本件は,人事部門などの第三者が,もっと早い段階で 2 人から意見を聞き取っていれば,対立は回避できたはずだ。

 外部人材は,組織に馴染むまでに大小のコンフリクトを起こすことを前提とした人事マネジメントが必要だ。

 入社後あまり期間を空けずに,人事部門が本人と上司の双方にヒアリングし,クッション役となるのだ。「上司にそれを言ったら終わり」という局面をつくらせないことは,ダイバーシティ推進に向け人事部門が果たすべき重要な役割といえる。

 ポイントは本人だけでなく,上司にもヒアリングすることだ。このような「コンフリクト・カウンセリング」が近くキャリア・カウンセリングや産業カウンセリングより脚光を浴びるようになるだろう。

 この問題の根本には, 1 から10まで言わなくても武田氏とは相互に理解し合えるという社長の思い込みがある。労働契約書には職務内容として「宣伝・営業」と明示されており,社長は入社時に売上目標を記載した簡単な書面を渡していた。にもかかわらず武田氏はあくまで自分は宣伝担当で,売上目標は 1 つの目安だと主張していた。

 人は選択的に情報を受け取り,自分の都合のいいように解釈しがちだ。個人差は大きいが,一般論として,高年齢者ほどその傾向は強くなる。企業OBを受け入れる場合,定年まで慣れ親しんだ組織や仕事に寄せて物事を理解しようとしたり,一旦思い込むと修正が容易でなかったりする点には注意が必要だ。

 用語 1 つとっても,会社が違えば意味は異なり,誤解を生むもとになる。従って,書面では舌足らずな単語や短文ではなく,冗長に思えるくらい丁寧に職務内容や期待成果を詳述するほうがよい。人材多様化時代には,暗黙の了解を前提としない人事管理が必要なのだ。

 

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