キレてます(人事コンサルの日常など)

経営コンサルタント各務晶久が日々の雑感、ノウハウなんかを綴ります

管理職の選抜と育成はどうすべきか? 「PM理論」「カッツ理論」/人事のモヤモヤがスッキリする学術理論⑤/月刊人事マネジメント寄稿連載記事

月刊人事マネジメント2019年12月号に私の寄稿記事の転載許可が下りたので、紹介することとしたい。

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人事のモヤモヤがスッキリする学術理論

管理職の選抜と育成はどうすべきか?

「PM理論」「カッツ理論」 

 「プレイヤー時代は優秀だったのに管理職にした途端ダメだった」

 「初めから優秀な管理職なんているわけがない,どうやって育成したらいいのだろう?」

    どこの組織でもよく聞く話だ。

 繰り返し議論されるテーマなのに,意外に整理が進んでいないのでモヤモヤしてしまう。

 今回は,そんな時に役立つ,「PM理論」と「カッツ理論」を紹介したい。

 

<「業績」と「人間関係」のどちらに関心があるのか> 

 プレイヤー時代には抜群の業績を上げていた人を管理職にした途端,部下を「根性論」で追い立てることがある。こういうマネジメントでは,部下がつぶされるか,部 下から突き上げを食らって本人がつぶれてしまうかのいずれかだ。

 その一方で,部下との人間関係に心を配り,きめ細やかな配慮をするけれど,与えられたミッションをやり遂げることには今一歩の人もいる。部下からの評判は良い が,課題をやり遂げられなかったり,チームの業績が低かったりするので上司からの評価は低い。

 両者の違いはいったい何だろう?

 前者は業績の達成志向が強く,人間関係への配慮が低い。後者は人間関係の維持に関心が高いが,業績達成への関心が低い。つまり,両者の関心の対象がそれぞれ異な っているのだ。

 

<優れたリーダーシップとは> 

 三隅二不二氏は,「業績」と「人間関係の維持」をもとにしたリーダーシップの研究を行った。

 彼は高い目標を掲げたり,緻密にフォローしたり,プレッシャーをかけたりする監督行動をP(パフォーマンス)行動,部下の意見に耳を傾けたり,気まずい雰囲気を解きほぐしたりする行動をM(メンテナンス)行動と呼んでいる。

 図1 のように,これらP行動とM行動を2軸にしたマトリクスでリーダーシップスタイルを整理したのがPM理論だ。

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 PM理論では,P行動とM行動の双方ともに高いPM型(ラージピー,ラージエム型)が最も有効なスタイルだとされている。また,PとMは掛け算であり,足し算ではないという。

 つまり,P行動,M行動のどちらかがゼロなら効果はゼロ,どちらかが突出していれば短期的には効果を上げそうだが,長続きしない。

 なお,Pm(ラージピー,スモールエム型)は業績の達成に強い関心を示すが,部下の気持ちには関心を払わないモーレツ上司で,部下が消耗していく。

 pM(スモールピー,ラージエム型)は部下と仲良くやっていこう,和を大事にしていこうとするが,業績の達成に関心が低いので部門業績を引き上げにくい。

 pm(スモールピー,スモールエム型)は業績,人間関係のどちらにも関心が低いので,管理職に据えてもうまくいかないことが多い。

 理想を言えば,「業績志向」「人間関係の維持志向」の2つとも高いPM(ラージピー,ラージエム型)の管理職を選抜するのがベストだ。

 管理職の選抜に際しては,この2軸の発揮度合いを日常の行動を通じて上司がよく観察しておくことが重要だ。

 また,上司のバイアスを補完するためにもアセスメントを利用するのも一手である。

 ちなみに,市販されている多くの管理職選抜用アセスメントでも,この2 軸を測定しているものが多いが,基になっているPM理論を知らないと,十分活用できないだろう。

 

<組織課題に基づく教育訓練を> 

 本来選抜の段階でPとMの2軸を基にしたスクリーニングをしなければならないが,人材が必ずしも潤沢でないことのほうが多い。だから,多少のことには目をつぶ って管理職にせざるをえないのが現実だろう。

 そこで重要性が増すのが教育訓練だ。

 一般に商社や販社など,営業職が多い会社では,高い業績を上げた人を管理職に選抜しがちだ。

 一方,非営利組織や官僚的な組織などでは,人間関係で波風を立てない人を昇進させやすい。

 前者ではP行動を発揮する人を昇進させているが,M行動の発揮は十分でない可能性がある。後者の場合は,その反対の可能性がある。

 つまり,管理職訓練を行うにしても,不足する能力はどちらなのか,その前提が違えば設計は大きく変わる。

 このあたりの課題整理を行わないまま,出来合いの管理職研修を導入し,効果がないと講師や教育業者に不満を漏らすのはナンセンスだろう。

 

<組織課題に基づく教育訓練を> 

 経営学者ロバート・カッツは,管理職に必要なスキルを図2 のように3つに大別している。

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 1つ目が実務能力である「テクニカルスキル」, 2つ目が対人関係を処理する「ヒューマンスキル」,3つ目が抽象概念を扱う「コンセプチュアルスキル」だ。

 カッツによれば,3種の能力は,高位のポジションと低位のポジションで必要とされる割合が異なる。

 低位のポジションではより実務に近い「テクニカルスキル」が,高位のポジションでは抽象概念を扱う「コンセプチュアルスキル」がそれぞれ求められるようになる。

 特に問題となるのは,「コンセプチュアルスキル」をトレーニングする場を持たずに管理職に昇進させてしまうことだ。

 多くの組織で,「管理職に必要なスキルを持っていないがどうすればよいだろうか?」という相談をよく受ける。よくよく聞いてみれば,大抵はこの「コンセプチュ アルスキル」不足に行き当たる。

 前述の「P行動」や「M行動」の強化も,この「コンセプチュアルスキル」のブラッシュアップも,単発の集合研修などで解決しないのは自明だ。

 人事マネジメントとして重要なのは,職務を通じてこれらの能力を磨く場を与えることである。

 例えば,管理職昇進前の一定期間,管理部門の経験を必ず積ませて抽象概念を扱う機会を持たせる,人事評価にP行動やM行動を加えるなど,組織のシステムにビ ルトインする強化策が必要なのである。

 

( 参考文献:三隅二不二『リーダーシップ行動の科学』有斐閣1984

ロバート・L.カッツ「スキルアプローチによる優秀な管理者への道」/『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』ダイヤモンド社 1982年 )