キレてます(人事コンサルの日常など)

経営コンサルタント各務晶久が日々の雑感、ノウハウなんかを綴ります

給与を上げても モチベーションは高まらない? 「動機づけ衛生理論」/人事のモヤモヤがスッキリする学術理論④/月刊人事マネジメント寄稿連載記事

月刊人事マネジメント2019年11月号に私の寄稿記事の転載許可が下りたので、紹介することとしたい。

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人事のモヤモヤがスッキリする学術理論

給与を上げてもモチベーションは高まらない?

 「動機づけ衛生理論」 

 「優秀な人に高い給与を払わないとモチベーションが上がらない」

 「賞与で差をつけないと士気が落ちる」

    人事担当者やライン管理職からよくこんな話を聞く。

 さも常識のような口調で語られる金銭面とモチベーションの関係だが,果たして本当だろうか?

 給与や福利厚生を良くすることが社員のモチベーションを上げ,高い成果に結びつくなら人事管理は至って簡単だ。

 現実はそう単純ではないのでモヤモヤしてしまう。

 今回は,そんな時に役立つ,「動機づけ衛生理論」を紹介したい。

 

<不満足を解消してもモチベーションは上がらない> 

 アメリカの心理学者フレデリック・ハーズバーグは,仕事における満足と不満足を引き起こす要因に関する研究を行った。

 ハーズバーグは,仕事に満足を感じるもの(動機づけ要因),不満足を感じるもの(衛生要因)にはどのようなものがあるのかを調べた。

 その結果,満足を感じるもの(動機づけ要因),不満足を感じるもの(衛生要因)が全く別系統であることを突き止めたのである。

 もう少し分かりやすくいうと,不満足を解消しても,動機づけにはつながらないし,不満足要因を放置したままでも動機づけは可能だということだ。

 例えば,職場の椅子が壊れていれば社員は不満足を感じる。

 椅子を修理すると不満足は解消されるが,イスを修理したぐらいで社員が急にやる気になるわけではない。

 一方,イスが故障したまま(不満足を抱えたまま)でも,仕事ぶりを褒めるなどで社員のモチベーションを高められる。

 このように不満足を感じる要因と動機づけに効く要因は別系統のものという発見は,人事管理上,極めて重要な示唆を与えてくれる。

 

<給与や労働条件は衛生要因> 

 ハーズバーグは調査の結果,図のように,「企業の方針」「監督」「監督者との関係」といった不満足要因(衛生要因)を明らかにしている。

 これらの衛生要因を放置すると社員の不満足は次第に高まり,最終的には離職に結びつく可能性があるため,全く放置していいわけではない。

 だからといって,不満足の解消に成功しても,社員のモチベーションを高められない点には留意が必要だ。

 ここで非常に重要な点は,「労働条件」や「給与」が不満足要因(衛生要因)となっている点である。

 冒頭述べたように,モチベーションと給与・賞与などの関係は常識のように議論されている。

 しかし,給与を含めた労働条件は不満足要因(衛生要因)であり,支給額を上げたとしても不満の解消にしかならず,必ずしもモチベーションを高められるわけではな いのである。

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<動機づけはお金以外で>  

 ハーズバーグが動機づけ要因に分類したものは,「仕事の達成感を感じること」「周囲から認められること」「仕事そのもの」「責任感を引き受けて全うすること」「功 績が認められて昇進すること」「自己の成長を実感すること」などである。

 これらは,いずれも金銭的な報酬ではなく,本人の承認欲求や,自己実現欲求を刺激することだ。

 モチベーションアップを声高に叫ぶ企業ほど,上司が部下を褒める取り組みが十分ではないように思える。

 モチベーションアップに効果的でお金もかからない「褒める」ことは捨て置かれ,効果の薄い給与・賞与の議論ばかりに注目が集まる のは皮肉なものだ。

 成果主義が一気に広まったとき,人事評価結果が給与や賞与により強く反映され,処遇格差が拡大した。

 その際,目的の一つに,社員のモチベーションアップを掲げる企業が多かったが,ハーズバーグの理論に照らせば,うまくいかないのは必然だろう。

 

<人事評価も運用次第> 

 精緻な人事評価制度を構築し,手間暇をかけて運用しても,結果の用い方一つでその効用が大きく変わることを本理論は示唆している。

 動機づけ衛生理論に照らせば,社員のモチベーションを上げるには,評価のフィードバックを適切に行ったり(褒めたり,認めたり),皆の前で表彰したりするほうがは るかに動機づけには効果的なことが分かる。

 評価結果を工夫してフィードバックするのではなく,給与や賞与の支給額ばかりに反映しているようではモチベーションを高められない。

 評価以前に,上司が日常のマネジメントを通じて部下の仕事ぶりをつぶさに観察し,認めてあげることが何より重要なのである。

 

<内発的動機づけを> 

 内面からやる気が湧き出ている状態を「内発的に動機づけられた状態」という。社員をこのような状態に持っていくのは人事マネジメントの一つの理想だ。

 しかし,金銭的報酬を外部からちらつかせると,内発的動機が減じてしまう。

 デシはこれを「アンダーマイニング効果」と呼び,マネジメント上避けるべきだと説いている。

 金銭の多寡がモチベーションアップにつながらないという研究は一つではないのである。

 

(参考文献:フレデリック・ハーズバーグ 「モチベーションとは何か」 / DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部『動機づける力』ダイヤモンド社2005年/ エドワード L.デシ『内発的動機づけ─実験社会心理学的アプローチ』誠信書房1980年)